温泉 オッサン ロードバイク
入江九夜鳥
0. 癒されたいのでマッチポンプ
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疲れた。
ストレスは現代社会の宿痾と言っていい。
小学生のうちから競争社会に晒される現代社会。部活で、授業で、試験で、受験で、就職で、仕事で、出世で。
全ての出来事は数字で管理され、評価される。
良い結果を出した者には高い評価を与え、そして次はより良い結果を求める。
悪い結果を出した者には低い評価を与え、そして次はより良い結果を求める。
常にその繰り返しだ。
人々は競争社会の荒波の中で翻弄される笹船のように、流れに飲まれないように耐えている――私もその中の一人だ。
耐えて藻掻いて足掻いて、ストレスだらけの日々を戦っている。
しかし耐えるばかりではいずれ壊れてしまう。
だから、人は癒しを求める。
癒しとは何か。
それは猫である。
ふわふわの毛皮。しなやかな身体。気まぐれの権化のようなあの愛くるしい姿に癒しを感じる。
ただ一つ問題があるとすれば、私は現在賃貸住宅に住んでいるので猫を飼うことはできない。
よって
癒しとは何か。
それはおっぱいである。
柔らかな乳房。桃色の乳首。追い求めてやまない母性の象徴に癒しを感じる。
ただ一つ問題があるとすれば、私は現在独り身であるのでこの場におっぱいは無い。男っぱいならあるが癒されぬ。
よってAVを……げふんげふん。
癒しとは何か。
それは温泉である。
温かな泉。地球と自然そのものから贈られる癒しそのものである。
ただ一つ問題があるとすれば、私は現在温泉を所有……いや、普通ねーわ。温泉所有してるとかねーわ。
よって私は癒しを求めて温泉を目指すことにした。
ところで日本は世界的に見ても、珍しい程水源に恵まれている土地であるという。
そして同時に、火山活動が活発な土地でもある。
その二つが合わさると何が起こるのか。
それは、割とそこら中に温泉が湧いているということである。
現在私が居住する岐阜県多治見市にも、近隣の土岐市や可児市にも温泉施設がある。
しかし、どうせ癒されるならば最高の癒しを求めたいというのが人の欲。
となれば、温泉だって最高のものであるべきではないだろうか。
そう考えた時、私の灰色の脳みそにピコンと麦電球が灯った。
岐阜県にはあるのだ、最高の温泉が――日本三大温泉と呼ばれる、下呂温泉が!
癒しを求めて温泉というならば、ここ以上は無い、ここ以外に無いだろう最高の選択肢である。
下呂温泉を目指すことを決定した私は早速ウキウキで準備を始めたのだが、あることに気が付いてしまった。
いや、だが……待てよ。
本当にコレでいいのか?
コレで十分なのか?
癒しに必要なのは、真に最高の癒しに必要なのは……最高の温泉に最高の癒しを求めるのであれば
かくして私は下呂温泉を目指す。
そう、ロードバイクで。
多治見~下呂は約85kmの距離。
精神的な疲弊とともに、肉体的な疲労を稼ぐ。
最高まで疲労困憊しそして辿り着いた温泉郷にて私は身も心も最高に癒されるのだ。
マイナス値が大きければ大きい程、リフレッシュの効果も高まるという完璧な計画だ。
期待に胸を膨らませながらも、私はロードバイクに跨った。
最高の癒しを求めていざ行かん、約束の地――下呂温泉へ!
マッチポンプ?
癒しのためならば些細な事ですよ、ええ。
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