第20話 まず、お友達から

ちょ、ちょっと待って?


私は殿下の婚約者という立場を、全力で回避したくてですね。先日のお茶会で、ちょっと達成できたかな、的な……?


……ダメだ。敗因(?)が思い浮かばない。


「あの、殿下。それは何かの気の迷いでは……?わたくし、お茶会でも少し自由に振る舞い過ぎたかと反省しておりまして……。王太子妃など、とても」

「分かってるよ。君が王太子妃に……わたしに全く興味がないことも、仕事をしたいことも。まして王命など使おうものなら、どんなことになるのかも」


お、おおう。これはマリーアの脅しがだいぶ効いてますね。まあ、脅しじゃない恐れも大いにあるからこその殿下の発言でしょうが。


「でしたら……」

「でも、わたしは君がいいんだ。こんなに発想豊かで力もあるのにそれに傲らず、権力に……王家に媚びずに自立しようとするその心。そしてその優しさ。リリアンナ嬢のような女性には初めて会った。これからも隣で見ていたら、楽しいだろうなと思って」

「まあ、わたくしのリリーですからね!」


こ、これは噂の「おもしれー女」枠ですか?!そしてマリーアまで乗らないで。

抜かった、抜かりましたよ!意外と現実にはありそうでない枠だと思っていたのに……。王子には響きやすいのか。


「お褒めいだいて光栄ですけれど、わたくしなど、たかが知れていますわ。本当に、まだ婚約など考えられなくて……」

「分かるよ。だから、チャンスをくれないか」

「チャンス……ですか?」

「うん。私が学園を卒業するまでに考えてくれないか?その間、君を口説くことを許してもらいたい」

「く、くどっ……、っ、それでもわたくしが頷かなかったら、どうされますの?」

「ご心配なく。義務は果たすからね」


殿下の卒業までと言うと、18歳まで学園だから、あと6年。結構長いけど過ぎてしまえばあっという間で、きっと一番、心が移ろいやすい時だ。良くも悪くも。


わたしなんて10歳で、まだまだ子どもで。


マリーアとのフラグは無くなった感じだけど、学園で殿下も新しい出会いがあるだろうし。子ども時代の3歳差って大きいから、自然と気持ちが変わる可能性は大いにある。なんならマリーアとだって、少女マンガあるあるの出会いは最悪だったけど、いつの間にか……!とかって展開もあるかもしれない。

うん、きっと、今の私への物珍しさの興味が薄れる可能性が高そう。


「先ほどから殿下のお話ばかりですけれど、婚約者ではないのですから、リリーは好きに誰と恋愛しても構わないということでよろしいのですよね?」

「……それは、もちろん。わたしを選んでもらえるように努力するけれど。最初は兄でも友人とでも思ってもらっていい。どうかな?リリアンナ嬢」

「……はい。そういうことでしたら。えっと、殿下も……」


他に好きな人ができたら言って下さいね、と続けようと思ったのだけれど。


「ありがとう……!とても嬉しい。これからもよろしく、リリアンナ嬢」


って、あまりにも喜々満面の笑顔でキラキラと言われたら、さすがの私も続けるのが躊躇われた。心配事が増えるなあと言うのが正直な所だけど、やっぱりね、人の気持ちをあからさまに踏みつけるのはいかんやつよね。


人の気持ち……


っ、あー!思い出した!

ずっと気になっていた、マリーアの聖女としての目覚めのタイミング!

私が嫉妬のあまりに魔力を暴走させて、魔物たちを呼び込んじゃって、殿下が襲われそうになったからだった……。

けど、今の私は殿下に嫉妬も何もないしなあ。しかも、マリーアと殿下のフラグもかなり怪しいし。


どうにも、イベントが起きる気配すらない。まあ、魔物なんて大量発生しても困るし?人を呪わば穴二つって言うし?呪う気なんてないし?もし、このままマリーアが聖女として覚醒しなくても、問題ない……はず。


シナリオを私がいじっちゃったようなもんだしな……。やっぱりせめて何かあった時に、少しでも戦力になれるように魔法の勉強頑張ろう。そっちだよね。


「はい、最初はお兄さまとして、よろしくお願いいたします!」


私の結論はやっぱりお妃さまではないけれど、わざわざ殿下と関係悪化をさせる必要もない。諦めるまではお付き合いをします。……卑怯な大人ですが、何か?


「お兄さまも、いいね」


と、はにかむ殿下にちょっと罪悪感は持ってしまうけれど。


少し痛む胸を押さえて私は、黙って微笑み返しをするのだった。

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