第11話 魔力測定

「ふんふん♪」



ちょっと心に引っ掛かりはあるものの、神殿へ向かう道すがらの私もご機嫌だ。



『サファイアの君と共に』は、ジュニア向けのファンタジー小説だったので、馬車もファンタジー。


空間魔法で前世で言えば飛行機のファーストクラスくらいの余裕があるし(前世で乗ったことはナシ)、揺れずに速い。お馬さんも魔馬で、魔法の馬車と相性がいいらしい。うーん、ファビュラス!



「すごい!やっぱり庶民の辻馬車とは違うのね……」



ほぅ……と感動したように呟くマリーアに、またホロリとする。



「マリー姉さま!今日は楽しみですね!魔力測定の後は、パーティーもあります!ケーキは果物がいっぱいですよ!」



貴族の子女の誕生日は、人をたくさん呼んで盛大なパーティーをすることが多いが、10歳は特別だ。大半が当日に神殿に行くので、家族だけで思いっきり祝う。



「ふふっ、そうね。でも、リリーの誕生日なのだから、リリーの好きなケーキにしたら良かったのに」


「だって、わたくしも果物大好きだもの!それにマリー姉さまも10歳をいっぱいお祝いできなかったでしょう?今日は一緒にお祝いよ!」



この四ヶ月で、マリーアと私も更に打ち解けた。


姉妹で丁寧語は寂しいとのマリーアの要望で、身内内では砕けて話すようになった。


今日の私の誕生日に向けて、うちの料理長にケーキのリクエストを聞かれたのだが、マリーアの大好きな果物たっぷりケーキにしたのだ。私はチョコレート派だけれど、果物も大好きなので、何の問題もない。今日はマリーアの魔力お披露目の側面もあるし、盛大にお祝いしたかったのだ。



「楽しみね!二人のお祝いだもの」



うきうきでマリーアを振り返ると、ぎゅっと強く抱きしめられた。えへ。ケーキ喜んでくれたのかな。だったら嬉しい。



「もう、二人は本当に仲良しね。お母様も入れて欲しいわ」



姉妹二人できゃっきゃしていたら、お母様に焼きもちを焼かれた。最近のお母様はすっかり素直で、これはこれで可愛い。



「もちろんですぅー」


「お義母様、大好きですー!」



二人でそう言って、ぎゅっと抱きつく。お母様の幸せそうな顔に、私たちも嬉しくなる。



「お父様は……?」


「今は女子会なので!」



父がしゅーんと項垂れる。寂しそうだが、お母様よりいろいろ、いろいろを根に持っている私は塩対応だ。そりゃあさ、私は当人じゃないんだけどね!当人は許しているんだけどね!自分の父だと思うと余計にムカつくというか。


……でも、まあ。



「もうちょっとしたら、お父様にもぎゅっとしてあげますよ」



お父様の顔が、パアッと明るくなる。


当人が許している以上、飴もあげますよ。そこはね。


とても喜んでいてくれることが分かるし。


バッドエンドにもなりたくないし、うん、ねっ。


だから、甘々も必要な訳ですよ。……そういうことにしといて下さいな。





家族でわちゃちゃして、15分くらいで神殿に到着。



神殿はイメージで言うと、ギリシャの世界遺産的な?荘厳な建物だ。壁面は光の加減で白にも青にも見えて、とても神秘的。



「さて、行こうか」



お父様の声に、皆で付いていく。わあ、内装もキレイ。ステンドグラスって、誰が発明?したんだっけ?神秘的で綺麗だよね。この世界にもあるのか~。まあ、原作を考えればあるのか。



「ご機嫌よう。ようこそいらっしゃった。サバンズ侯爵家の皆様」


「大神官様。本日はお世話になります」



聖堂に入ると、既に神官様がスタンバってくれていた。しかも大神官様。偉い人だよね。


周りに人はいない。同じ誕生日の人はあんまりいないのかな?



「大神官様にわざわざお越しいただいて……」


「なに、マリーア嬢が気になっておったからの。いやすまん、もちろんリリアンナ嬢もじゃぞ」



マリーアがうちに引き取られた経緯が経緯だから、分かるけども。こんな些細な、ちょっとした言葉にも原作のリリーは引っ掛かりを感じたのかもしれない。今の私は、大神官様がマリーアの魔力を心配してとの事とわかるけどさ。



「さて、どちらのお嬢様から測定を始めましょう?」


「はい!はい!!わたくしからお願いします!」



ちょっと食いぎみに口を挟む。主役は最後にと決まっているのよ。



「ほほ。ではこちらの祭壇に置かれた水晶に魔力を流してくださいませ」


「はい!」



私は教わった通りに水晶に手をかざして魔力を流す。


水晶は徐々に光を増していく。


魔力量は光の色に表れる。赤から始まり、橙、黄、黄緑、緑、深緑、青、紺、濃紺、紫へと。聖魔法はお約束の白だ。ちなみに平均は、黄色から緑くらいだ。



光が、赤から黄色へ、黄色から緑へ、緑から青へ、そして紫へと変わった所で落ち着いた。



「これは……素晴らしいですな!紫の光とは……近年の王族でもみられなくなった魔力量ですぞ!リリアンナ嬢、沢山学ばれるがよろしい」


「……あれ?」



私、原作でそんなに魔力あったっけ?思わずじっと手を見る。


最後、ヒロインを呪おうとするのだから、それなりだったと思うけど。



……まあ、いっか。「すごいぞ、リリー!」って両親も喜んでいるし。きっとこの後のマリーアので帳消しにされてしまうだろうし。


沢山使えると分かっただけで、私は満足よ!明日からさっそく家庭教師さんに習おう!



「さて、次はマリーア嬢じゃな。こちらに」


「……はい」



マリーアが緊張した面持ちで水晶に手をかざす。


想像通り、色は順々に変わって行き……



「おお!なんと言うことだ!マリーア嬢は濃紺ですぞ!!侯爵、素晴らしいご姉妹ですな」



……あれあれ?



そんな訳はない、はず。今回、私は邪魔してないし。マリーアヒロインの開始じゃないのですか?



「ええ?!マリー姉さまが濃紺?大神官様、よく見て下さいませ!」


「リリアンナ嬢?見ると言っても…………おや?これは?」



大神官さまが改めて水晶を覗き込む。



「これは……まだ弱い光だが、淡く、白い光が輝いておる……。侯爵!やはりマリーア嬢には聖魔法の素養もありそうですぞ!なんたる僥倖!」


「なんと……まさか本当に!すごいことだぞ、マリーア」


「え、わたくしが……?本当ですか?」



マリーアは信じられないと首を振り、大人たちはちょっとしたお祭り騒ぎになっている。そりゃそうなんだけど。



「……まだ、微かでいいんだっけ?聖魔法……」



私は一人で首を傾げて考え込む。やっぱり肝心なことを忘れている気がしてならない。



まあ、血生臭い小説じゃなかったし?魔物のスタンピードが起こるとかの気配もないし?



大丈夫だよね?

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