第3話 お母様と私

さて、無事に(多分)ヒロインとの対面は果たした私。



お次は身の破滅回避の為に策を練りたいところ。と、いうことで、部屋に一人にしてもらったのですが。



正直に言おう、小説の詳細は覚えてなーい!


だってさ、私が小学生の時の話だよ?…まあ、今はそれくらいの年だけどさ、そういうことではなくな?



取り敢えず、お母様が張り切って私を王太子の婚約者に据えようとするのを阻止するのが一番かな?とは思う。ざっくりとした粗筋は覚えているから、何とかなるだろう。後は頑張れ、私の記憶力。



前世を思い出して、上げ膳据え膳お嬢様状態を続けたい私だけれど、自分が恵まれた環境に生まれ落ちたことは自覚している。その分の…侯爵令嬢としての領分は、きっちり果たすつもりだ。働かざる者食うべからずよ!日常の家事の煩わしさから解放されるのだから、他の責任は果たす所存だ。ノブレス・オブリージュね!



これから、学園に入ったりでいろいろあったと思うけど、王太子の婚約者になっていたりしなければ、きっと大半の事は避けることができるはず。



マリーアに差をつけたくて頑張るお母様には申し訳ないけれど…。こればかりは諦めてもらうしかないわよね。



ぶっちゃけ、ノブレス・オブリージュは頑張るつもりだけれど、王太子妃…引いては王妃様なんて、できればなりたくない。まあ、そもそも王子が選ぶのはマリーアだけどさっ。



「うん、何とかなる!とりあえずマリーアにも家庭教師を……って、お父様が考えているわよね」



と、部屋の中をぐるぐる歩きながら一人言ちていると、ドアがノックをされた。



「はい?」


「リリー?お母様よ。入ってもいいかしら?」


「はい!どうぞ!」



私は自分でガチャりとドアを開け、お母様を招き入れた。



「侍女にお茶でもお願いしますか?」


「わたくしはいいわ。少し、リリーとお話ししたいのだけれど……いいかしら?」



お母様はソファーに優雅に腰を降ろす。さすがの侯爵夫人だ。少し影のある微笑みが、また美人。残念なことに、原作ではこの後からだんだんヒステリックになっちゃうんだよ。


わざわざ私の部屋に来たのも、きっとマリーアのことで、だよね。



「もちろんですわ、お母様」


「ありがとう。……リリーは、先ほど嬉しい、と言っていたけれど……新しいお姉様のこと、本当に喜んでいるのかしら?」



おっ、初手からぶっ込んできましたね!



詳細は覚えていないとはいえ、私の始まりの反応が変わったから、このお母様との会話も変わっているはず。もしかしたら、そもそも原作にはこの二人の会話なんかなかったかも。言い方はあれだけど、自然な意志疎通で流れるように虐めを始めてたもんね……。



と、すると、この会話は大事なはず!



少しでも、負のループから逃れるようにしなくては。



「はい!うれしいです。……お母様はちがうのですか?」



ちょっと意地悪だけど、お母様の横に座りながら顔を見て話す。不思議そうな顔をして。



「何だか……リリーは少し変わったわね?急に大人になってしまったようだわ。少し前の貴女なら……」



お母様はそう言って、口ごもる。私を見ずに、真っ直ぐ正面を向いたままだ。きっと心の中でいろいろ葛藤しているのだろう。



確かに私は、ちょっと気の強い、思った事を言いがちの、子どもらしい我が儘さを備えたお嬢様だった。



けれど、大人の記憶を思い出しても、私自身は今の自分との違和感もあまり感じないのだ。きっと、前の私とリリーの性格は似ていたのだと思う。あのまま成長しても、なった予感がするのだ。



ただきっと、物語のリリーはまだ子どもだった。当たり前だ。



だから、お母様の悲しい顔と苛立ちを敏感に感じ取ったし、お父様を独り占めできないことに不安になって、あんなことをしちゃったのかな、と思ったりする。子どもって、大人が思う以上に大人を見てるんだよね。



優しかったお母様が何だか怒りっぽくなって、貴族に慣らせる為に何かとマリーアを優先しているお父様の姿(お父様はそんなつもりはなくとも)に、リリーは寂しさと焦りを感じて、全ての原因のマリーアにぶつけてしまったのは、当然の流れのような気もする。



リリーも子どもだったし、マリーアだって子どもだ。遠慮もしていたし、二人にどこか申しなさを感じていても、新しい環境に慣れるのに誰よりも必死だったろう。気持ちの余裕だってなかったはずだ。自分に敵意を見せる二人に、何が出来ただろう。



……そう思うとホント、ちゃんとしててよ!父!!と思わずにいられない訳だが。



まあ、恋愛なんてね、そう思ったように進む方が少ないけどさあ。……いやいや、9歳、9歳。初々しさはもうちょっと残したい。頑張れ、現世の私。



「お母様、わたくし……」

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