アジサイ畑で捕まえて 4本目

「オレが相手だ! 勇者野郎!」


 眼帯をした《海賊》が向かってくる。

 海賊らしく分厚いサーベルとピストルを握り、顔には痛々しい傷痕もつけている。

 この顔を日本の町中で見たら驚きのあまり足を止めてしまいそうだ。

 子供が泣く顔だ。


「その意気やよし!」


 まだ他の冒険者たちは姿を見せるほど近くにはいない。

 血の気が多い相手は、乱戦中でも隙あらば攻撃してきて厄介だ。

 放っておくと、あとあと面倒なことになる。


「タマ取ったらァ!」


《海賊》がピストルを向けてきた。

 視線と銃口から、おれの頭を狙っていることがわかる。

 鉄砲に詳しくないから、《海賊》が持ってる火縄銃っぽいのが連射できるのかわからない。


 だけど、射線から頭はズラしておく。


「でも、それだけで対処できるほどSランカーは弱くないでしょ?」


「そうとも! 《歌い踊れ銃弾の雨バレットダンス》!」


《海賊》がスキルを使い、おれの周りを囲むように魔法陣が輝く。

 魔法陣の包囲網につかまってしまった。

 やっぱりただの銃撃じゃないようだ。


「閉じ込めてなぶり殺しにするタイプのスキルと見た」


「人間サイズのモンスターで、この魔法陣の網を抜けられたヤツはいねえよ」


「じゃあ、おれが最初だな」


「いまの言葉、墓石に辞世の句で刻んでやるよ!」


《海賊》がピストルを撃つ。

 頭をそらして避ける。

 避けた銃弾が魔法陣に当たり、おれの方に


「──跳弾ってやつだ!」


「そうとも! 網に入ったが最後、死ぬまで追いかけてくるぜ!」


 胴体に向けて飛びこんでくる銃弾をサイドステップで避ける。

 頭のように小さい部位狙いならいざ知らず、胴体のように大きな目標を狙われたら小さい動きでは避けられない。


 そして魔法陣に当たった銃弾が、ふたたび跳弾して襲いかかってくる!

 

「くそっ、性格悪いぞ!」


「いい子ちゃんが《海賊》なんてクラスを選ぶかよ!」


「ごもっとも」


「そうら、もう一発!」


《海賊》が銃弾を放つ。

 これで一度に二発の銃弾がおれに襲いかかる!


 避ける、避ける、避ける、ちょっとカスった。

 大剣で弾く。弾かれた銃弾が魔法陣に跳弾して、あらぬ方向から向かってくる。

 これは、厄介だ。


「防御してばかりでは始まらないけど、冒険者を攻撃してる暇もないか!」


 背中に担いだ大剣で銃弾をガードすると、もう一発の銃弾に向かって大剣を振り、銃弾を真っ二つに切り裂く。

 

「そら!」


《海賊》ではなく魔法陣に向けて投げナイフを投擲する。


「リリース!」


 魔法で《爆発》を付与した爆発投げナイフを起爆。

 これで魔法陣をいくつか減らせたんじゃないか?

 うん、突破口ができた。


「逃がすかよ!」


 両手にピストルを構えた《海賊》の射撃。

 全身を大剣で隠し、ピストルを連射を防ぐ。

 銃弾が大剣に激突する度、柄を握る手に鈍い衝撃が走る。


 これが生身に直撃した時のことは考えたくないな。

 骨と肉をゴッソリと抉り取られてしまいそうだ。


「海賊さんの剣の腕はいかが?」


「試してみな!」


 大剣を振り抜いてサーベルにぶち当てる。

 鋭い剣と鋭い剣が切り結んだことで火花が散り、アジサイに火が付いた。


 抜刀を防がれたのは久しぶりだ。

 やっぱり、Sランク冒険者にもなると、強い。


「もっと真面目に戦いたいところだけど──ごめん!」


「ああ!?」


《海賊》を蹴って距離をとる。

 マントから爆発投げナイフを取り出し、《海賊》に向かって投擲する。

 起爆。


 爆風と砂ぼこりとアジサイの花びらが広がっていく。


「あなたとばっかり戦ってたら他の冒険者に囲まれるでしょ! これも戦術ということで!」


 背中を向けて走り出す。

 逃げてないです、転進です。


「まだファーストアタックとれてなかったのに──あっ!? フェンリル?! でかっ! グワーッ!?」


 後ろから聞こえる悲鳴から察するに、アジサイ畑で遊んでいたフェンリルが追いついてきたらしい。

 あの悲鳴なら、致命傷と言わないまでも気絶か戦闘不能にまで追い込まれていそうだ。

 最初から戦ってくれていれば、おれもずっと楽をできたが、気まぐれなワガママ狼だからしかたない。


「フェンリルやーい! この調子で削ってくぞ!」


『うーん。それはちょっときびしいかもだぞ』


 珍しく大型犬モードのフェンリルが念話で話しかけてくる。


「なんでだ? 変なものを食べてお腹が痛むか?」


『ううん。とんでくる冒険者がいる』


「飛ぶったって、そんなの異世界でも飛んでたんだからダンジョンでも飛ぶ人はいるでしょ」


 おれは見たことはないが、ユニークアイテムには《空飛ぶ絨毯》まであるという。

 そうやって飛ぶ冒険者もいるだろうし、中にはスキルで飛行する冒険者だっていてもおかしくない。


『なんかね、鉄の塊が、とんでる』


「鉄の塊?」


 バカをいうんじゃないよ。

 巨人の岩投げじゃないんだから鉄の塊なんかが空を飛ぶわけがないだろ。

 背の低いアジサイ畑の草むらから顔を出し、双眼鏡で偵察してみる。


 空を飛ぶ物体を見つけた。

 二枚のローターを振り回して宙に浮かんでいる。


「ヘリコプターじゃねーか!」


 しかも軍隊で使うような大型のヘリコプターだ!

 地震の時にテレビで見たから覚えてるぞ!


「なんでダンジョンの中にヘリコプターがいるんだよ……しかもギルドのマーク付き!?」


 ヘリコプターの胴体に刻まれているマークは、ギルド所有の財産であることを示すマークだった。

 交番のマークとか、社用車のロゴとか、ああいうの。


「……なんでヘリコプターがダンジョンの中に!? この日本はファンタジー世界にミリタリーを持ち込むタイプの世界だったのか!?」


 頭が混乱してきたぞ。

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