今日の勇者、休息をだいなしにされる。

生命タマ取ったらァ!」


《探検家》の攻撃がくる!

 薪割り斧だ!


「あっぶな!」


 バックステップで間一髪回避。

 自己紹介もそこそこに、急に襲われるなんて。

 

 おれに当たらなかった薪割り斧が、木に当たって止まった。

 次の瞬間、その木がブロック状に細かく分割された。


「おい、それ人間に使うスキルじゃないだろ!」


 発動条件はたぶん、斧の刃がヒットすること。

 しっかり切り込まなきゃいけないのか、かすっただけでも発動するかは分からないが、かなり怖いスキルだ。


「ユニークモンスターが何を言っている!」


《探検家》は聞く耳を持たない!


「この人、目が血走ってかなり怖いぞ!」


 目にはのマークが浮かんでいる。

 なんて現金な《探検家》なんだ。

 

「こわい……」


「フェンリルもちょっと怯えてる!」


:なに女の子を怖がらせてんだテメー!

:ワンちゃんを怖がらせんなよテメー!


 ぶんぶんと斧を振り回しながら向かってくる《探検家》は、だいぶ怖い。

 しかもこっちを殺る気満々だ。

 

「おとなしく首を出せーッ!」


《探検家》がバックパックから消火斧を取り出した。

 消火斧と薪割り斧の二刀流だ。


「フェンリル、逃げるぞ! こんな危険な人の相手はしたくない!」


「いつもみたいに”みねうち”でかえせばいいのに」


「戦う気がなくなるレベルで怖いっていうか……」


「キェェェェェェェ!」


《探検家》が消火斧を投げる!

 回避は間に合わない。

 ブーメランのように弧を描いて飛んでくる斧を剣で叩き落す。

 

「斧に剣を当てたな!?」


「しまった、つい反射で」


 剣を投げ捨てる。

 次の瞬間、剣はブロック状に細かく切断されてしまった。


「フェンリルはたたかいたくないなぁ……せっかくみがいた『つめ』と『きば』にきずがつきそうだ」


 切断される様子をみたフェンリルも、もともとたいしてなかった戦意を喪失してしまった。

 気分屋のお子様は怖いものを見たら、すぐ怯えてしまう。


「子供は怖がって戦えない、だったらおれが倒すしかないか!」


:ワンちゃんをペットじゃなくて家族扱いするその心、誉れ高いよ

:いま勇者ポイントがたまったかもです

:フェンリルちゃんかわいいね あとでパンケーキ食べよっか


 フェンリルはいいな、リスナーに猫可愛がりしてもらえて!


「懸賞金はオレの物だーッ!」


 斧二刀流の《探検家》が飛び掛かってくる。

 なんという名前のスキルかは知らないけれど、斧の刃に当たった対象を細かく分割する凶悪なスキルを使ってくる。


 だから、武器と武器がぶつかるような切り合いはできない。

 こっちの武器が壊されるばかりで割に合わない。


 だから、武器で戦わないで、搦め手でいかせてもらう。

 こんな危険人物と対策もない状態でまともに戦ってられるか!


「冒険者の一本釣りだぁ!」


 竹の釣り竿を振る。

 釣り糸を《探検家》のバックパックに引っ掛ける。

 そして釣り竿を振り上げる。


「オレを釣るだと!?」


 釣り竿を見て、背中に感じる牽引力に、なにをされているか気づいたらしい。

 

「そのバックパックをすぐには外せまい! ここからいなくなれ!」


 竹の釣り竿を振る。

 地底湖に住まう巨大モンスターを釣り上げた時と同じ要領で、一本釣りで放り投げる。


 巨大モンスターでさえ釣り上げられる力だ。

 人間ひとりなら遠くまで飛ばすくらいわけがない。


「これでお終いだと思うなよォ!」


 空に向かって放り投げられた《探検家》が捨て台詞を残していく。

 あの人、一本釣りで投げられたわりに余裕があるな。


「……移動するか」


:目を背けてもなかったことにはできないぞ

:あの《探検家》が最後の《探検家》とは思えない……

:何度もでもよみがえるさ


 たまにだけど、こうして懸賞金目当ての冒険者に襲われることもある。

 その度にくよくよしてたらやってられない。

 気分を変えよう。


「なあ、ごすずん」


「なに? パンケーキならあとで焼いてあげるから」


「あと5人くらい、にんげんがきてる」


「5人? いままでの賞金稼ぎはひとりずつ来てたのにな……」


 通りすがりの冒険者パーティーだろうか。

 騒ぎを聞きつけてやってきたのかもしれない。


「うーん。にんげんの殺気をかんじる」


「うーん。それは穏やかじゃないな」


:うーん。フェンリルちゃんの口癖がうつってますよ

:うーん。妹の口調がお兄さんにうつることがあるんだ


 人間が近づいてくる気配がする。

 いまから逃げても間に合わないようだ。


「いたぞ! 異世界勇者だ!」


 鉢巻と黒帯の《空手家》が姿をあらわした。


「囲んで叩くぞ!」


 鎧と大剣の《騎士》が姿をあらわした。


「ユニークアイテムは山分けでしょうね!?」


 レイピアとドレスの《吟遊詩人》が姿をあらわした。


「ど、どんな素材をもってるかな」


 片手剣と軽装鎧の《錬金術師》が姿をあらわした。


「犬もおる。フィヒヒ」


 魔法の杖をもった《白魔導士》が姿をあらわした。


 5人パーティーらしい。

 おれを狙ったギルドの刺客だ。


「今日は相手がおおいな。なんでだろ?」


:今朝、ギルドが記者会見してたからだな

:ニュースを見よう!

:知ってると思って言ってなかったわ

:言ってたけどちょうどコメント欄を見てなかったんじゃね?


 ほんとうになにがあったんだ?

 

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