異世界帰りの勇者、切り抜き動画になる。
「だ、だれ……!?」
とっさにネームプレートを確認する。
冒険者でもモンスターでも、敵味方の表示と名前が表示される。
《???:鑑定不能》
なのに、この人の名前どころか冒険者なのかモンスターなのかもわからない。
:なに? ユニークモンスター?
:冒険者って偽装できないよな?
私もコメント欄も混乱してる。
こんなのSNSでも聞いたことないし、ショート動画でも見たことない。
『《
そして謎の人が剣を投げる。
投げられた剣が《フロストドラゴン》を自動追尾する。
剣が《飛剣抜刀》でも傷一つつかなかった氷の鱗を切り裂いて、片方の翼を切り落とした。
「一撃で翼を……!?」
飛竜種との戦いは持久戦だ。
一回切っては一回避けて、えんえんとターン制バトルをやってどっちが先に倒れるか競う戦いなのに。
この人は一撃で翼を切り落とした。
:ドラゴン撃破の最短タイムって25分だよな?
:あいつもしかしてタイムアタック更新できるんじゃね
《フロストドラゴン》が振り返り、謎の人に頭を向けた。
ブレスが来る。
「逃げて!」
ブレスは盾があっても防ぎきれない!
なのに、謎の人は真っすぐドラゴンに向かって走っている!
『来い、《
謎の人が大きな盾を構えて一直線にドラゴンに向かう。
ブレスの直撃コース!
:あいつ死んだな
:来るぞ、《
:これで推しPTが壊滅させられてるんだわ!
巨大な氷のかたまりが弾けた。
猛吹雪のように氷の刃が謎の人に殺到する!
「ああっ……」
謎の人は《
あれではダメだろう。
トップランカーの
:ありゃ死んだわ
:ユニークモンスターっぽいのに もったいなかったなー
吹雪が晴れた。
《フロストドラゴン》の向こうに、まだ盾が立っていた。
「生きてる!?」
盾が消えて謎の人があらわれた。
あのブレスの中を生き残ったんだ。
『飲みつくせ、《
スキルを読み上げて大剣を取り出した。
あの人はたぶん、魔法剣士だ。
人間3人分はありそうな、竜殺しの大剣。
透明な氷の刃でできていて、剣の向こう側がすけて見える。
:だれかあのスキル知らない?
:wikiにも載ってないぞ!
ドラゴンが怯えてる。
戦闘から逃げて、ながめているだけの私だって、すごく怖い。
あの大剣を見ているだけで背筋が凍りそうなくらいだもん。
その切っ先を向けられた竜はもっと怖い思いをしているんだ。
「氷で、氷を切る……?」
謎の人が一歩踏み出すと、足元から氷がパキパキと音を立てて広がっていく。
私のところまで膝が震えるような寒さが伝わってくる。
絶対零度の剣。
「GAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
《フロストドラゴン》が走り出す!
人間一人を丸呑みできる大きな顎を広げて、謎の人に向かっていく。
:さっきの盾でなんとかならない?
:あれ魔法無効だから物理は分からんね
:なんで魔法無効だって分かるやつがここにいるんだよ!
謎の人も走り出した。
お互いにお互いのことを倒そうと、相手を倒すことしか考えていない、一騎打ちの動き。
「さすがに竜にひかれたら死んじゃう……よね?」
:質量に差があったら即死だね
:冒険者はトラックにはねられてもノーダメージなのにドラゴンにはねられると即死するか弱い生き物
:トラックにはねられて生きてるだけで強すぎんだろうがよ!
「GAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
『……ふん』
ドラゴンの噛みつき。
間一髪で謎の人が避ける。
氷の大剣を握りしめ、床がひび割れるほど強く踏み込んだ。
そして謎の人が、私のように横目を向けた。
『……よく見ていろ、これがほんとうの《飛剣抜刀》だ』
「えっ?」
:いま話しかけた?
:さっきからこいつ日本語で喋ってるぞ
:意思疎通できるモンスター!?
私もコメント欄も混乱してる。
謎の人が剣を振る。
氷の大剣が、ドラゴンの首をさっと撫でるような気軽さで振られた。
そのままドラゴンが走り去る。
謎の人が大剣を背中に担ぐ。
「いま、切ってた?」
:振ったまでは見えた
:なんか、すっげー滑らかに振ってなかった?
:あれでキレてるわけないじゃん
「そうだよね……?」
謎の人がこっちに歩いてくる。
もう《フロストドラゴン》の方を見てもいない。
「え、ちょっ」
「GAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「ドラゴンが! 来てますけど! 生きてる!」
てくてく。
謎の人は気にせずこっちに向かってくる。
『大丈夫──』
謎の人が目の前まできた。
へたりこんだ私に目線をあわせてくれたのか、膝を突いてポーションを差し出してきた。
兜の奥から声がする。
『──もう、斬った』
ずるり、とドラゴンが首がズレた。
「GA……!?」
ズレた首が落ちて、ごろごろ転がっていく。
自分の首を切り落とされたことに気づいていない竜の巨体はそのまましばらく走る。
5歩ほど走ったところで、ようやく自分の首がないことに気づいたようで、首をなくした巨体が床に沈む。
地震と勘違いするほどの揺れを起こして、《フロストドラゴン》が倒れた。
:え
:一撃?
コメント欄も驚きのあまり止まってしまった。
あまりにも現実離れした展開だもん。
:エリアボスをソロで攻略?
:まだ未討伐のモンスターをひとりで倒した?
:それも一撃で翼と首を切り落とせる冒険者?
:というかネームプレートが鑑定不能って今までないよ?
:そもそもこいつ冒険者なん?
『……ポーションを飲んだ方がいい。不味いけど我慢して』
「えっ、あ、はいっ」
まだ頭の中が混乱してぐるぐるしてる。
言われるがままにポーションをもらっちゃった。
「もしかして、
ダンジョン攻略の最前線を突っ走るギルド公認の最精鋭。
そのくらい強い人じゃないと説明がつかない。
『いや……ランクとか持ってないんだ』
「ランクがないって、冒険者じゃないの!?」
ギルドに登録してないのにダンジョンに入るなんて、聞いたことない。
冒険者はみんな、ギルドに登録しないとダンジョンに入る許可が下りないから。
:まじ? 日本語で話せるユニークモンスター?
:世界初の映像を見てる
:切り抜きを作った
:オッケー拡散しておく
もしかして、私が思ってたよりすごいことになっちゃったんじゃ?
私、人類初のユニークモンスターと会話した冒険者になっちゃった?
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