異世界から帰ってきた勇者、ダンジョン配信してたら美少女を助けてバズったらしい ~魔王に育てられたおかげで無双しちゃってる件~

すもものモーム

異世界帰りの勇者、ネットで発掘される。

異世界帰りの勇者はダンジョン配信中

「異世界から生還したら、現実だと死んだことになって戸籍が消えているとは……」


 おれ、タマキ・サカエは異世界から帰還した勇者である。

 なんのへんてつもない現代日本の一般家庭に生まれたが、気がつくと異世界にいた。

 異世界では魔王に育てられ、なんやかんやで現代日本に帰ってきた。


「日本っていい国だったんだな。人間扱いしてもらえれば」


 どうも異世界ファンタジーをしてきたせいで、普通の人間の範疇を超えてしまったらしく、ダンジョンに閉じ込められてしまっている。

 ホームレスになるくらいならとダンジョンに潜入したまではいいが、ギルドのステータス検査で、異常なほど高いステータスを出してしまったせいで追いかけ回され、指名手配されてしまったらしい。


「思わず追っ手の人に叫んじゃったもんね。『おれ何かしちゃいましたか!?』って」


 じゃあ、何をしたか思い出してみよう。


 現代日本生まれ、日本育ち。

 異世界に転生して、魔王に育てられて勇者になった。

 なんとかして現代日本に帰ってきた。

 新人冒険者のステータス検査で、異世界のステータスのままだったから検査に引っかかった。


「……おれ何も悪くないよねえ?!」


 叫んでみてもダンジョン奥深くに存在する森の中にこだまするだけ。

 だーれも答えを返してはくれない。


 そんなおれにもささやかな楽しみがある。

 ダンジョン配信だ。


「こんばんわ、『異世界から帰還した勇者は今日もソロ』です」


 焚火の前でカメラを起動し、配信を始める。


 最近のスマホのマイクはちょっといいやつなので、パチパチと弾ける焚火の音が視聴者にダイレクトに聞こえているはずだ。

 視聴者は、多くて3人とか4人くらいのガチ底辺配信だ。

 

「今日も冒険に出る前に、装備を準備するから、短い間だけど付き合ってくれよな」


 コメントをもらえることもほぼない。

 だけど、何人かおれの配信を見てくれているってことが大事なんだ。

 ダンジョンで冒険者と遭遇してもユニークモンスターと勘違いされるし、地上に出てもホームレスになっちまう。


「これは《魔剣カラドリウス》。魔王様から選別にもらった剣で、よく切れるんだ」


 両手剣に砥石をかける。

 実は砥石をかけなくても切れ味が落ちない魔法の剣だ。

 でも、砥石を使うとちょっぴりよく切れる……ような気がする。


「砥石のかけ方は、四天王の黒騎士さんが教えてくれてさぁ。ゴッツイの鎧なのにすっげぇ優しいんだわ」

 

 一日一万回感謝の素振りとかやらされたけど、剣の手入れとか大事なことからみっちり教えてくれたなぁ。


 ポコン、とコメントが入った音がする。


:きょうはワンちゃんいない?


 小学生からのコメントだ。

 お子様のおねだりにはしっかり答えないとな。


「ああ、いるよ。《来い、フェンリル。血を吸え肉を食え》」


 召喚呪文がぶっそうなのはスルーしてほしい。

 万が一、ご両親と見ていても聞こえないように小声で唱えたから。


「ワフゥ……」


 焚火の隣に魔法陣が浮かび、中から魔狼フェンリルが出てくる。

 ただし子犬サイズだ。

 戦闘モードで出したら、怖くて小学生なんて泣いちゃうからな。


「よーしよしよしよし、おまえもリスナーさんに挨拶しろよ」


「クゥーン」


 そっぽを向いた。

 高貴な狼ともあろうフェンリルが、顔も知らない人間に媚を売りたくないらしい。


「そう言わずに、な? ベーコンやるから」

 

 焚火で炙ったベーコンを差し出す。

 フェンリルがベーコンとカメラをチラ見した。


「カメラに向かってお辞儀できたら食べさせてやる」


「………………ワウ」


 葛藤の末、フェンリルがお辞儀した。

 魔王様が見たら「フェンリルがお辞儀!? 人間相手に?! 私には撫でさせてもくれないのに!?」と発狂するかもしれない。


「よしよし、よくできました。ご褒美だぞ」

 

 ベーコンを食べさせながらたっぷりと撫でまわす。

 ワウ、ワフン、など気持ちよさそうな声を出す。


「こいつ気難しくってさぁ、おれが女の子と話してるだけで首を噛もうとしてくるんだぜ?」


:ワンちゃんたすかる

:フェンリルちゃんもっとベーコン食べてくれ


 フェンリルが出てくると、コメント欄もちょっぴりにぎやかになる。

 動物系ショートはおれも好きだ。


「メスだから嫉妬してんのかな? そこんところどうよ」


 手を噛まれた。

 尖った牙が刺さって、すごく痛い。


「おまえ、帰ってきたらお風呂の刑だかんな」


「ワフゥ!?」


 お風呂が苦手なのは犬も猫もフェンリルも一緒らしい。

 フェンリルがプライドをかなぐり捨ててピョンと飛び上がって逃げていく。


「夕食までには戻ってこいよー! 今日はドラゴンの肉でBBQだぞー!」


 逃げるフェンリルの背中に叫ぶ。

 カメラを焚火に向けなおす。


「じゃ、冒険に出かけてくる。配信は繋げっぱなしにしておくから、焚火の音を楽しんでくれよな」


 配信機材を置いて、冒険に出かける。

 白米とお味噌汁が恋しいけど、ダンジョンだと手に入らないからなぁ。



          §



:《フェンリル》ってテイムできたんだ いいなー

:いや、ダンジョン下層の固定ボスだからテイム不可だぞ

:じゃあなんでこの人はテイムしてるの?

:犬にフェンリルと名付けただけの、「なりきりコスプレ配信者」だから

:えっ冒険者じゃないの!?

:当たり前だろ

:《フェンリル》どころか、ボスをテイムした記録なんかないぞ

:それに《魔剣カラドリウス》だって、ダンジョン攻略Wikiにも載ってないからな

:なーんだ 残念


「本物なんだけどなぁ……」


 ほんとのことを言っても信じてもらえないのが、冒険者に登録できなかった違法ダンジョン居住者のツライところだぜ。

 現代日本人なのはあってるけどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る