23.I3-6

「気付いちゃったんですね。平吉さん」


 部屋に入るなり、白川さんはそんなことを口にする。その表情は、ここ最近見せてくれていなかった初期の困り顔であった。


 しかし、ファシリテイターの部屋も他のプレイヤーの物と違いはないのだなと思う。


「あ、いえ……適当に言ってみただけですけど……」


「……! そうだったのですね。それでもその適当はおおよそ的中ですよ」


 白川さんは右目を瞑り、左目だけ見せるようにウィンクして見せる。


「今の左目の白川さんが本当の白川さんってわけですか……?」


「いえ……それは少し違います。そうですね……敢えて言うなら、どちらも本当の私なのです」


 白川さんは目を逸らすようにしながら続ける。


「元はどちらも全く同じ私なんです。二重意識の能力を持った瞬間から私達は二つの意識を持つようになりました」


 二重意識というのは、別の人格があるということなのだろうか……


「ちなみに、平吉さん、ご存知ですか? 利き手があるのと同じように人間には利き目があるということを」


「あー、どこかで聞いたことあります」


「そうですか。であれば話が早いです。私達の違いは基本的には、利き目が右目か左目か……だけです。不思議な物で、元は全く同じでも、たったそれだけの違いで少しずつですが、考えることに差が出てくるんですよ」


 わずかな変化で結果が大きく変わるという点で、なんとなくバタフライエフェクトのことを想像してしまった。


「元の私の利き目は右目だったので、そういう意味ではオリジナルの私は、左目の私ではなく右目の私なのかもしれません……」


 話の中に私がたくさん出てきて、何を言っているのかわからなくなってきた。


「……そして、もう一つ違いがあります」


「ファシリテイターであるか否か……ですか?」


「……その通りです。白川がファシリテイターとなった時、弱かった私の代わりに右目はファシリテイターを引き受けてくれたのです」


「……」


 どういう経緯でファシリテイターになるのかなど気になるところだが、今は話の腰を折るのは止めておこう。


「知っての通り、ファシリテイターの責務は決して軽い物ではありません。非情な宣告を告げることが日常的に発生しました。参加者から極悪女などと罵倒されることは珍しくもありません。そのせいで、右目は以前に比べ、感情の起伏が少なくなったと思います。それでも感情がないわけではないのです。私が言うのも変かもしれないですが、この子はとてもいい子なんです」


 確かに、なかなかユーモアがあるとは思う。


「えーと、お待たせしました。多分、ここからが平吉さんが聞きたかった話です」


 ここまでもなかなか刺激的な話であったと思うが……


「あの子はファシリテイターという立場から情報の公開が制限されています」


「つまり、ファシリテイターでない貴方はその対象ではないと……?」


「その通りです。もちろん知らないこともありますが、知っていることであれば開示することは可能です。まぁ、話したくないこともあるので、全てを話すわけではないのですが……それで、何か聞きたいことはありますか?」


 聞きたいことは山ほどあるが……


「この世界は何なんだ?」


「欲張りな質問ですね」


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