第12話 セーブポイント
「――、さとし」
「ん……?」
左隣にいるやらかしに体を揺らされて目を開ける。そこには、いつもと同じ強制改善室の風景があった。
ぼくたち三人はパンツ一丁だけど、今回はロープで縛られていなかった。
「またさっきと同じ状況かよ!! なにここ、なんかのセーブポイントとかあんの⁉ ゲームじゃないんだから、ここの部屋でスタートさせないで!」
もう嫌だ。何もしていないのにぼくはなんでここにいんの?
しかも、パンツ一丁になってるし、体操服どこ行ったし。
「セーブポイントかー……この世界がもしギャルゲーの世界なら、俺たちが何度も同じ場所に戻ってくる理由が分かるんだけどなー。この世界がギャルゲーだったら、正しい選択してヒロインを攻略してハッピーエンドになれるのになー」
え、怖い。意味不明なことを急に語りだしたよ、やらかしのやつ。
頭がおかしくなったのか?
「ああ、それ分かるんだよ」
いや分かんないよ! 言っている意味。
ぼくは全く理解していないよ、ふたりとも!
いや、そもそも……
「そもそも、ギャルゲーってなに?」
「え? ギャルゲー知らないのか⁉」
「う、うん……」
なに、その驚き顔?
ギャルゲーを知ってるのが常識みたいな反応はやめてくれる?
「恋愛シミュレーションゲームのことだぜ。ゲームの世界の物語とか、女の子たちとイチャイチャしたりとか、色々と楽しめる奥深いゲーム。分かりやすく言うと恋愛漫画のように読み進めるゲーム……いや、違うなー、説明が難しい。とりあえず、二次元の女の子たちと真剣なお付き合いをするゲームだ。俺はそう思っている!」
「そ、そんなゲームがあるんだ……」
「ん、まてよ……」
一言呟いたやらかしは、考える人のポーズをとって、何かを考えていた。
どうしたんだろう?
「俺、強制改善室に連れられなくなる良い方法を思いついた!」
「え、ほんとに⁉」
「今まで俺たちがこうやって捕まっているのはどうしてだと思う?」
「それは、校則を破ったから」
「違う」
「え、違うの?」
「モン吉は分かるか?」
「分かんないんだよー」
「ヒントはギャルゲー。ギャルゲー視点で考えると分かる」
「ギャルゲーって、さっき言ってた恋愛漫画のようなかんじで読み進めるゲームだよね?」
「そうそう」
「でもなー、ギャルゲーのこと全然知らないから、ギャルゲーがヒントって言われてもなー」
「じゃー、もうちょいヒントを与えると、選択肢」
「???」
余計に分からない。
「ギャルゲーはゲームが進んでいく中で、何個か選択肢が出てきて、選ぶものによってストーリーの展開が変わる。ハッピーエンドで終わったり、バッドエンドで終わったりする」
「んー、それでも分かんないなー」
「ぼくちんも分かんないんだよー」
「強制改善室に連れてこられない方法の答えは、正しい選択を選ぶこと。俺たちは間違った選択肢を選んだから強制改善室でペナルティというバッドエンドになった。そうは思わないか?」
「まぁね。なんとなく分かったよ、言わんとすることは」
やらかしが言いたいのは、違反行動という選択を選んだから強制改善室に連れてこられたんだよーって言いたいのだろう。
……ことのつまり、校則破るなって話じゃん。
さっきぼくが言って、違うって言われたんだが?
「正しい選択すれば、俺たちが今いる強制改善室を脱出でき、なおかつ、ハッピーエンドの道を歩むことができる」
「正しい選択って、誠実にありのままの事実を話し、悪いことをしたら素直に謝って、二度と校則を破らないって反省することでしょ?」
「それは違うぜ、さとし」
「じゃー、正しい選択ってなに?」
「マムに愛の告白」
「……」
「マムに愛の告白」
「いやいやいや、おかしいだろ! 絶対おかしいって!!」
「ギャルゲーで最大のイベントシーンといえば愛の告白と俺は思う。これが無かったらハッピーエンドなんてありえない。つまり、マムに愛の告白をしない限りマムを攻略することはできない」
攻略ってなんだ?
たぶん、マムと付き合えるという意味なんだろうけどー。
強制改善室に連れてこられないようにすることと関係ないじゃん!
「やらかしちん、その通りなんだよ。愛の告白が正しい選択なんだよ。これでやっと、強制改善室に連れられないで済むんだね」
「だまされるなー! モン吉ー!! やらかしの言葉を信じるなー!!」
右隣に座っているモン吉の言葉にぼくは全力で否定した直後、廊下の方から重い足音が聞こえてきた。
「そろそろマムがやってくるぞ。じゃんけんで負けた奴はマムに愛の告白な」
「ちょっ、待っ――」
「さいしゃはグー、じゃんけん――」
ぼくが止める前にやらかしがじゃんけんを始める。
「ポン――ぬはーーーーーー!!!」
言い出しっぺのやらかしは見事に負けた。
やらかしは床に倒れこんだ。
「オレ、コクハク、ダメ」
「おい、起きろ、やらかし! マム先生が来るよ!」
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