第34話 可愛い彼女は1パーセントの可能性を賭けるらしい

「風磨くん。朝、西城くんと話をしていた内容に関して聞きたいことがあります」


 放課後。

 飛鳥と駅前で合流し帰路に着いていると、そんなことを聞いてきた。


「その内容とは?」

「メンダコのぬいぐるみの件に決まっています」


 ですよね。

 逆にそれ以外で思い浮かぶことはないし。


「何か気に入らない会話でもあった?」

「そうゆう訳ではないーーーいえ、ありました」

「あったの?!」

「そうです。どうして私とのお揃いを否定したのですか? 教室に入って来るときも隠していましたよね?」


 よく聞いているよな。やっぱり、地獄耳だろ。


「一つずつ説明するけど、お揃いを否定したのは変な噂を立てないため。俺と飛鳥が仲良いことは秘密にする約束だっただろ。そして隠して入ってきたことに関しても秘密を守るためと単純にぬいぐるみを付けているのが恥ずかしかったから」


 俺は飛鳥に迷惑を掛けたくないだけだしな。


 飛鳥の不満そうに頬を膨らませた。


「私は風磨くんの気遣いが出来るところは好きです。ですが、秘密を守ることばかり意識していますと、どこかしらでボロが出てきますよ」

「それは…承知している」


 いつまでも隠し通せるとは思っていない。

 例え、俺や飛鳥がボロを出さなかったとしても、一緒にお出掛けをした時にクラスメイトに遭遇したら終わりだからだ。


「だからこそ、いま出来ることをやっている」

「…………」


 飛鳥はジーッと俺を見ると、そして笑みを浮かべてから呟く。

 

「最初にボロを出すのは私かもしれないなと思っていましたけど、風磨くんの方になりそうですね」

「ちょっと待って。最初にバレるかもしれないのは飛鳥ってどうゆうこと?!」

「風磨くんもご存知の通り、私は一部の方と仲良くさせてもらっています」


 そうだな。朝、昼、放課後、いつも話をしている姿を見かけるな。


「その方々と話をしていると、時々恋愛関係の話になるのです」


 高校生は青春真っ只中だから恋愛関係の話になるのは当然だな。西城もそうだったし。


「その時に思わず風磨くんとの同棲生活の話やこれからやりたい憧れの話を想像として話をしてしまうのです」


 いくら想像の話をしたとしても、リアル過ぎたらグループの人たちに違和感を覚えられるぞ。


「飛鳥、それはアウトだ」

「皆さんが目を輝かせていたので、私も薄っすらと感じてはいました」

「それなのに話を辞めなかったと?」

「想像したら楽しすぎて…」


 飛鳥は少し照くさそうにして答えた。


「とりあえずバレていないからいいけど、これからはお互いに気を付けないとだな」

「そうですね。風磨くんにとっての天敵は西城くんになりますしね」

「本当だよ。こんなにも可愛いメンダコぬいぐるみをぷにぷに触りやがって」

「かなりお気に入りになっていますね」

「当然」


 少しイライラした時に触ると落ち着くんだよな。


「それよりも気になったんだけど、これからやりたいことを想像したって何を想像したの?」


 飛鳥のグループたちが目を輝かせる程の内容だから、当事者としてもかなり気になる。


「そ…それは…」


 視線を横スッーとずらす飛鳥。


「ねぇ、一体何を考えた訳?」

「一度はやったことがある添い寝と…一緒にお…を入り…たいと想像していました…」

「後半部分が聞き取れなかったんだけど?」

「その…お風呂に入りたいと…」

「えっと…その…何と言いますか」


 一度は添い寝をしたことはあるからギリ耐えられるけど、お…お風呂は、ね。


 それにーーー。


「色々と飛躍しすぎというか…飛鳥が言っていたことに反しているというか…」


 ご褒美デートの時に飛鳥はカップルらしいことは、ちゃんと恋人になってからがいいと話をしていた。それなのにお風呂を一緒に入ったら、それはもうどんな関係だよになる。


「分かっています。ですが、少しくらい憧れてもいいですよね?」

「まあ憧れること自体はタダだしね」

「では、一パーセントの可能性に賭けますね!」

「………何故、そうなる?!」


 飛鳥は微笑しながらガッツポーズをする。


「可能性は無限大ですからね!!」


 あっ…これはもう何を言っても話を聞かないダメなパターンだ。


「そうですか」

「もう私が頑張って話したというのに、その適当な返事は何ですか!」


 俺の腕にトントンと叩いて来た。


「どう足掻いても無駄だと思ったから」

「そこは頑張ってほしいところですね」

「そこまで頑張りきれなかったよ」


 何事も諦めることも大事だしね。


「これからの努力を期待していますね!」

「何の努力だよ」

「そ・れ・は・自分で考えてください、ね!」


 飛鳥は人差し指を口元に添えて、そしてニッと笑みを溢した。


「は、はい…」


 そして答えが分からないまま、スーパーで夕飯のお買い物をして家へと帰宅した。

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