第12話 放課後フラペチーノ
———放課後。
最寄り駅にあるアニメキャラの銅像前で、霧宮さんが来るのを座って待っていた。
登校時同様、下校時も別々で帰宅する手筈を整えていたのだが、夕飯の買い物をする為に一緒にスーパーに来てほしいとメッセージが来た。
「付き添いはいいんだけど、最寄り駅が心配だな」
最寄り駅のスーパーは駅から直結している為、学園の人たちもお菓子や飲み物を買ったりするのに利用している。さらに二階には喫茶店、三階には本屋があるので尚のこと。
「気を付けて行動しないとだな」
そう心構えをしたところで、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
「柳木くん、遅れてごめんなさい」
霧宮さんは手を合わせて謝ってきた。
「俺も来たばかりだから、全然大丈夫だよ」
帰り際に何か頼まれているのを見掛けていたので、学園から最寄り駅まで歩いて時間調節をしていた。そのおかげで新しい発見も出来たし!
「とりあえず、学園の人たちに見つからない内に、スーパーのあるビルの方に移動しようか」
「そうですね。 知り合いに見つかったら、かなり騒ぎになってしまいますからね」
俺たちは周囲を警戒しながら、スーパーのある駅ビルへと移動をした。
駅ビルに着き、買い物をする為に一階にあるスーパーに降りようとしたら、霧宮さんに引き止められた。
「どうしたの?」
「あの…一緒にあれを飲みませんか?」
指を指す方に視線を向けると、新作フラペチーノの看板が入り口付近に置いてあった。
新作のフラペチーノのイチゴは気になるな。
ここ数ヶ月は飲めていないけど、俺は新作フラペチーノシリーズは大体買っている。
だからこそ、断る理由はない!
「ダメですか?」
返答に迷っていると思われたのか、霧宮さんが首を傾げながら聞いてきた。
俺は首を横に振った。
「俺も飲みたかったし、ダメじゃないよ」
その言葉を聞き、霧宮さんは微笑した。
「では、買いに行きましょう! 柳木くんには席の確保をお願いしてもいいですか?」
「う、うん。 分かった」
「あ、あと、同じ物でいいですか?」
「大丈夫だよ」
「それでは買ってきますね!」
霧宮さんはウキウキしながら、注文口へと向かった。それを見送った俺は店内に入り、対面席を確保をして、霧宮さんが来るのを待つことにした。
てか、普通は男性が注文して、女性が席に待つと思うけど…もしかして、俺って頼りない?
そんなことを考えていると、霧宮さんはニコニコしながら両手にフラペチーノを持って戻って来た。
「こちらが柳木くんのになります」
「ありがとう。 それで値段はいくらだった?」
「私の奢りです! 気にせずに飲んでください!」
「そんなことを言われても…」
これだと本当に頼りない男になってしまう。
だけど、霧宮さんはきっと代金を渡しても受け取ってくれないだろう。どうしたものか…。
「そこまで気になるのでしたら、後日、私の好きな物を買ってください。 勿論、値段はフラペチーノと同じ値段です」
「………分かった」
何だか、丸め込められた気がする…。
「それではフラペチーノをいただきましょう!」
霧宮さんはカップを持ち、ストローを口元に近づけて啜った。
それを見ながら、俺も自分のフラペチーノを啜ると、口の中にイチゴの香りが広がった。
さらに下の方をストローで啜ってみると、イチゴの果肉とミルクのコクが味わえた。
「うん、イチゴのフラペチーノも美味しい」
「これは買って正解でしたね!」
「だな」
そうしてフラペチーノを飲んでいき、残り半分となった所で朝に思ったことを聞いてみた。
「霧宮さん、朝の登校のことで一つ思ったことがあるんだけどいい?」
「何ですか?」
「今日の朝、霧宮さんが遅れて来ただけで、かなり騒がしくなったでしょ?」
「そうですね」
「いつも以上に盛り上がっていましたね」と苦笑しながら、フラペチーノを啜った。
「それを毎日、同じ時間で登校をしたら、色々と心配されると思うんだよね」
「そうですかね?」
反応は薄いのは取り巻きたちのことを本当の友達と思っていないからだろう。だから、特に気にした様子もない返答をする。
それでも真面目な彼女が、突然遅刻ギリギリに登校をしたら心配をされるのは必然だ。
「特に先生には問い詰められるかもね」
「それは…嫌ですね」
霧宮さんは苦笑した。
「だから、霧宮さんには普段と変わらずに登校をしてほしいんだ。 俺はギリギリに登校しても全く支障はないからね」
「そんな悲しいことを言わないでください。 それなら、私は柳木くんと一緒に登校しますよ」
それは本末転倒なんだけど!!
「それは同棲する時に約束したことに反する」
「そうです…よね」
霧宮さんは暗い表情をした。
「まあ、霧宮さんは何も気にせずに普段通りに登校してくれればいいよ。 どうせ秘密なんだしね」
「………分かりました」
どこか納得していない表情をしているが、無理でも納得してもらうしかない。
それでしか、俺たちの関係は守られないのだから。
「あれ? あそこの席にいるの霧宮さんじゃない?」
「本当だ。 対面にいる人は誰だろう?」
「見た感じ、冴えない男ぽいよね」
「うん」
「「………」」
「霧宮さんが冴えない男と一緒にいる訳ないか」
「だよね。 きっと、私たちの見間違いだね」
知らない所でバレそうになっていた二人だった。
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