第8話 可愛い同級生と新居へGO
「それではマンションへとご案内しますね」
「お願いします」
放課後。学園の最寄り駅で霧宮さんと待ち合わせをして、同棲先のマンションに案内してもらうことになった。そもそも住所を知っていれば、霧宮さんに頼ることなく一人で向かうことが出来たのだが、あの後も催促してが母さんは教えてくれなかった。
「それでマンションはどの辺なの?」
ずっと住んでいた家から学園までは大体、徒歩三十分前後になる。自転車だったら二十分前後だ。
それらを考えると、新しい家から学園までの登校時間は短くなってほしい。
霧宮さんは後ろを振り向き、口を開いた。
「ここから十五分程で着きます。 一応、秘密の同棲になるので、学園の人たちが少ない道にあるマンションらしいですよ」
「それは防犯面では大丈夫なのか…?」
学園の人たちが少ないということは、人通りが少ないとも捉えることが出来る。
「大丈夫みたいですよ。 人通りは多いらしく、マンションはオートロックですので。 あくまでも学園の人たちが少ないだけですから」
「それなら、いいんだけど」
「もしかして、私の心配をしてくれたのですか?」
「当然。 霧宮さんは可愛いから、もし変な人に襲われたら大変だからね。 でも、この前の強気な姿勢を見たら余計なお世話かもしれないけど」
「その…ありがとうございます」
視線をずらして、霧宮さんはボソッと呟いた。
「もし…襲われそうになったら、柳木くんは私のことを助けてくれますか…?」
「………近くにいれば助けるよ。 霧宮さんに何あったら、山神さんや良心に顔向け出来ないから」
「それでは、私は柳木くんの側に、ずっといないといけないことになりますね」
「そこは…お互いに無理のない範囲で…ね」
急に恥ずかしくなり、俺は視線を逸らしながら言った。だって、霧宮さんがキラキラの笑顔を向けてきたら、直視することは出来ないでしょ。
「………」
「………」
それから無言の時間が続き、住宅街を道なりに進んでいると、霧宮さんが足を止めた。
そして、こちらに振り向くと、霧宮さんは微笑しながら背後にある建物に手を伸ばした。
「着きました!」
「もしかして———」
「お察しの通り、こちらが私たちの住むマンションになります」
「ここが、これから住むマンション…」
そのマンションは両親と住んでいたマンションと同じ階数だが、こちらのマンションの方が明らかに大きい。目の前のエントランスホールにはグランドピアノまで置いてある。
周囲を見渡せば、霧宮さんの言っていた通り、学園の人たちはいないが、人通りはある。
「それでは中に入りましょう!」
「だな」
エントランスに入り、昨日受け取った鍵を使ってオートロックを解除した。そしてエレベーターに乗り込み、階数を押そうとした時———
(あれ…何階だ?)
母さんから階数を聞くのも忘れていたことに気づいた。いや、例え聞いたとしても教えてはくれなかっただろう。そんな感じで押そうとしていた指が彷徨っていると、霧宮さんが手を重ねてきた。
「霧宮さん?!」
「ふふふ。 彷徨っている手が面白くて、つい重ねてしまいました」
重ねてしまいました、じゃないよ!!
女性経験皆無なのに、突然手を重ねられたら緊張するでしょ。勘違いをしてしまうでしょ!!
「あの…緊張するから、手を離してもらってもいいかな…?」
「それじゃあ、彷徨っている原因だった階数ボタンを押してから離しますね」
ニコッと微笑むと、重ねた手を一つのボタンの位置へと移動させた。そしてボタンを押すと、約束通り重ねた手を離した。
「五階…なのか」
「そうです! 私としては最上階でもいいと思ったのですが、色々とあった結果五階になったそうです」
「そうなんだ」
その色々が気になるけど、五階くらいが妥当なのかもしれないな。最上階だと景色はいいかもしれないけど、災害とかあった時に逃げるのが遅れてしまう可能性もあるかもしれない。
そんなことを考えていると、あっという間に五階へと着いた。霧宮さんの案内で廊下を進んでいくと、一つのドアの前で足を止めた。
「ここが私たちが住む部屋です!」
部屋番号を確認すると“506“と書かれていた。
「では、部屋の鍵を開けますね」
「うん」
霧宮さんは上下の鍵穴に鍵を差し込み、ガチャリと回した。そしてドアノブを持ち、自分の方へと引っ張ってドアを開けた。
「では、私がドアを押さえていますので、柳木くんが先に入室してください」
「それは悪いよ。 ここまで案内してくれたのは霧宮さんなんだから、先に入るのは霧宮さんだよ」
俺は霧宮さんが押さえていた手の上側に手を置き、ドアを支えた。彼女は少し考える素振りをしたが、すぐに頷き、ドアから手を離した。
「それではお言葉に甘えて、私から入室させていただきますね」
そう言い、霧宮さんは室内へと入室した。
完全に中に入ったのを確認したら、続けて俺が入室をして、ドアの鍵を閉めた。
中を進み、リビングに入ると、既にソファー、テレビ、机などが揃っており、キッチンの方に目を向ければ調理器具も全て揃っていた。
「マジで全部揃っているよ」
「学園生活に支障ない生活が出来そうですね!」
「もはやだらけた生活になって、成績が落ちそうな予感がするんだけど」
「それは困るので、テスト勉強の時は手取り足取り教えてあげます」
何を教えるつもりなの?! テスト勉強で手取り足取りなんてことをしたら、もっと成績が悪くなる予感がする。うん、絶対に成績が下がるわ。
「普通でお願いします」
「ふふふ… 私、厳しいから覚悟してくださいね」
「はい」
「それでは部屋に運ばれているはずの荷物を整理が終わり次第、夕飯の話をしましょう」
「そうだね」
そして俺たちは一時的に解散をして、それぞれ準備された部屋へと向かった。
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