第14話 放課後の合流

 午後の授業も終わり、放課後になった。俺は帰り支度を済ませて席を立つと教室から出るが、やはりというかこの時間特有の帰宅ラッシュまたは部活ラッシュで廊下は生徒たちの一斉移動。この瞬間は億劫になる。


 だが流石に一年間もこの学校に通ってる俺だ、縫うようにかつ目立たないように移動する術は身に着けてある。下駄箱で靴に履き替えると、そのまま校門へと向かうだけだ。


 しかし、不意に男子生徒達の話声が聞こえてきて、その内容につい耳を傾けてしまった。


「俺さ、この間めっちゃかわいい女の子を見てしまったんだよ。知ってるか? この近くの学校、あそこから小麦色に焼けた元気いっぱいの女の子がさ」


 まさかと思った。その特徴に当てはまる人物とは今朝まで一緒に居た。だけど単なる他人の空似かもしれない。


 そう思ったのだが、一度気になると本当にそうなのか確かめたくて、息を殺しながらその会話を聞いていた。


「この近くの学校って小学校しかないけど。へぇ、あそこにお前好みの子が居たのか。もっと聞かせろよ、どんな感じの子なんだ?」


「流石に話した事は無いんだけど、そこに通ってる俺の弟が言うには、最近関西から引っ越して来たばかりの子でこれが可愛い上にコミュニケーション能力が馬鹿みたいに高くて一瞬でクラスの人気者になったんだと」


「ほう~。関西からって言うと……やっぱあれか? 関西弁バリバリ使う感じ?」


「そうそう。目もくりくりしてる上にサイドテールで小麦肌! これだけでもやばいのに関西弁で男子にも気安く話しかけるもんだから、今や密かに学年のアイドル扱いなんだそうだ」


「その内きっと学校中の男子の初恋を片っ端から奪って行くんだろうな。で、そこまで詳しく知ってるって事はお前の弟……」


「お察しの通り。ま、俺に対してそこまでは言ってないんだけれど。あの態度は隠せるもんじゃないよな」


「そんな弟の憧れの女の子とお近づきになりたいって? お前も悪い兄貴だな」


「恋にルールも卑怯も無いだろ。あるのは早いもの勝ちだけだ」


「恋人なんて出来た事も無い癖に語ってんなよ!」


「うるせぇ! お前だって彼女出来た事無いだろ!」


「ははは、ごもっとも。でもさ、そんな可愛い子なら俺も見てみたいな」


 そんな会話を最後に男子生徒達は玄関を出て行った。


(小麦色の肌でサイドテール……)


 まさかとは思ったが……そのまさかのようだ。


 近所とはいえ、高校生の耳に入るレベルで美少女なんだな。

 確かに、可愛いかどうかと言われればアイドル並みなのは間違いないけど。


(……いや別に、仮に高校生の彼氏が出来たって俺には関係ない。うん、そうだ。)


 まるで誰かに言い訳でもしているかのような思考だが、言い訳では断じて無い。


 俺とあの子の関係はあくまでもご近所さんなんだから。偶に会うご近所のお兄さん、それが俺のはずなんだから。


 校門を出てしばらく歩くと、下校中の小学生の一団が見えた。

 この時間帯なので当たり前といえば当たり前の事だ。普段なら何の意識もしないのだが……。


 俺はその場を去り、同じ高校の人間も小学生も見えなくなるくらいには足早で離れた。これで大丈夫だと思う。


「もう暮春ちゃんひどいわぁ。ウチの事また撒こうとしたやろ?」


「っ! な、何でもう追い付いて!?」


 離れたはず、なのにいつの間にか背後に明芽が立っていた。


「急に速歩きになる暮春ちゃんを見とったんよ。ウチに見つからん内に帰ろう思たんやろうけど、ウチはそんなんじゃ逃がさへんで」


「いくら走って無かったっていっても、小学生が俺に追い付けるはずは……」


「暮春ちゃん……自分で思てる程、足速無かったで?」


「え?」


「でも流石に可哀そうやし……。うん! ここは暮春ちゃんがゆっくり歩いとったから追い付けたって事にしたる!」


 ど、同情されてしまった……。


「あ、ありがとう……」


「ウチのやさしさに感謝しいや? ほな行こか!」


 そう言っては手を差し出してくる彼女。この手は一体?


「もう何しとるん? 手ぇ繋いで歩くんやで」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そんなの誰かに見られたら困る」


「安心し! ウチかてそこまで我が儘は言わん、誰か近づいたら離せばええねん。そいで二人っきりになったらまた繋ぎなおす。そやったらええやろ。だって暮春ちゃん今『誰かに見られたら』ゆうたもんな? それってつまり二人でならええって事やんか?」


「いや、今のはそういう事意識してたんじゃ……」


「うん? それ、心ん底ではウチと居てもええ思てる事になるなぁ」


 またあの悪戯な笑みで目を細めながら俺の顔を見上げ、除く込んでくる明芽。


 いや、だからそういう事じゃなくて! ……俺はもしかして無意識で明芽と居たいと思ってるのか? いやそんな馬鹿な!


 またも勝手に俺の顔の血流が勢いを増し、熱を帯びていくのがわかる。

 明芽に見られる訳にもいかないので、顔を背けた。


 でも、俺のそんな仕草が彼女の悪戯心をくすぐったのだろう、クスクスとした笑い声が耳に入ってくる。


「もう、ほんまに照れやさんやな暮春ちゃんは。ウズウズが止まらんようなるわ。ほな、改めて行こか」


「お、おい! だから手を繋ぐなんて……」


「ええってええって。奥手くんの為にウチがリードしたるさかい!」


 俺の抗議も空しく、強引に手を握られる。

 そしてそのまま明芽は俺の手を引いて歩き出してしまった。


(……俺は一体どんな顔をして歩けばいいんだ?)


 そんな事を考えながらも、結局彼女の手を振りほどく事は出来ずにそのままついて行く。






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