第39話 契約の締結

「ヒミカさん、条件をのみましょう」


 俺はエルフとヒミカの間に割って入った。


「どうした桐木、さっきまでの強気はどうした?」


「エルフが召喚を解くという切り札があるということであれば、さっきの条件は受け入れた方が良いと思います」


「はっ、何を言う。私は早く成仏したいのだぞ」


「ヒミカさんたちが死んでしまったら、俺たちも殺されます」


「いや、それはないぞ。少なくとも私は、死ぬときにお前に私の能力を引き継ぐ。そうすれば、お前は一気にレベル100になり、私のスキルも取得する。義宗たちも市岡や佐竹などの弟子に受け渡すだろう。さすれば、エルフなど恐るに足らん」


 恐らくキリネはそれを知っていたのであろう。懐柔策に切り替えて来た。


「ヒミカ、そう死に急ぐでない。条件をのむのであれば、無用な争いを回避できるのだ」


「ふん。契約は魔法による契約だな? 契約主を桐木にするのであろう」


「その通りです。桐木殿に転移者を代表して契約をして頂きます」


 マグマが待ってましたとばかりに答えた。ヒミカが俺の方に振り向いた。


「桐木、魔法の契約は違反したらそこで命を取られる。エルフは何の足枷もないお前に足枷をはめたいのだ」


 そういうことか。転移者は召喚を解除すれば、100年で寿命を迎えるが、俺はそもそも召喚されたわけではない。ただし、歳を取らない属性は持っており、エルフよりも長生きするということで、エルフとしても俺を持て余しているのだな。


「別にいいですよ。で、契約のお相手はどなたになるのでしょうか」


 俺はそうこたえた。契約ってのは、いくらでも抜け道が出てくるものだ。気にすることはないと思った。


「私だ」


 エルフ側の契約主はキリネが担当するようだ。


「ヒミカさん、どうか条件をのんでください。お願いします」


 俺はもう一度ヒミカに頭を下げた。


「姉貴、俺からも頼むぜ」


 義宗もこの点については俺に賛同するようだ。


「仕方ないな。条件をのむことにしよう。早速始めるか?」


「はい、契約の用意はしてあります」


 マグマがすぐに契約の道具を取り出して来た。エルフ語と日本語の両方で書かれた布のような契約書に俺とキリネがそれぞれ署名をした。


「さて、これで憂いはなくなった。ヒミカ、死ぬがよい」


 契約書の署名を終えたキリネが、ニヤリと片方の口角を上げた。


「やはりそう来たか。義宗、分かっているな」


「姉貴……」


「ようやく最期を迎えられる。キリネ、感謝する」


 俺には止めることが出来なかった。


<<一人分の魔石3,265,600ポイントを取得しました。レベルが100に上がりました。ポイズン、バイオ、ボム、リペア、カースの魔法を覚えました>>


 俺はすぐに最強魔法カース「死神の呪い」を目の前の三人のエルフにかけようとしたが、すぐに転移されてしまった。


 ヒミカと義宗とカナは身体が消え、大きな魔石が残った。三つの魂が魂の道を通って、元の世界に帰って行く。他の転移者の魂も次々にダンジョンから現れては、魂の道を通って、元の世界へと帰って行った。


 市岡や佐竹や女子たちが、二階からリビングに駆け降りて来た。


「桐木、何があった? 俺も佐竹も突然レベル100になったぞ。スキルもすごい」


「私たちもよ、桐木くん」


 絵梨花たちもレベル100になったようだ。亡くなった転移者は10人だが、それぞれの転移者がレベル80以上だったため、クラス全員がレベル100に達することが出来たようだ。


「エルフが召喚の魔法を無効化したんだ。絵梨花たちは普通の時間軸に戻ったんだよ。これからは普通に歳を取っていく。だが、ヒミカさんたちは一気に時間が流れ、寿命が尽きて死んでしまった。能力を俺たちに引き継いでな」


「義宗さんたちもかっ!?」


 市岡が悲痛な顔をしている。義宗は無茶苦茶な性格ではあったが、ヒミカの言いつけを守り、市岡と佐竹にはしっかりと修行をつけていたようだ。


「転移者全員だ。お前たちも含まれている。呪縛も解けて、地上へも出られるはずだ」


「くそう。エルフの奴め。桐木、仕返しに行くのだろう?」


 佐竹が息巻いて俺に聞いて来た。


 俺は全員にエルフとの契約の話をした。


「……というわけで、エルフの国には許可がなければ立ち入れない。とりあえずは、ドワーフ国に戻って、今後の戦略を立て直したいと思っている」


 全員異議はないようだ。俺はヒミカから受け継いだマストランスレーションの能力を使い、全員をドワーフのルミエールの元に転送させた。

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