第11話 復活
―― 権田の憑依視点
絵梨花たちに合流済みの三班の権田は、絵梨花に俺が殺した佐藤たちのことを聞いていた。
「桐木に殺された?」
「急に桐木くんに襲いかかって来たそうなの」
権田は、如月の死がスズキとの相打ちだと加世子から説明を受けていたが、加世子を疑っていた。同様に権田は絵梨花を疑っているようだった。
思春期の男子の中には、自分が理解できない女性という生き物を敵視することで、精神的に自己防衛する傾向が見られることがあるが、権田はこの傾向が極端になり始めていた。
権田は高校生の俺にも話しかけた。
「桐木、お前、佐藤たちを殺したのか?」
「ああ、突然、後ろから羽交い締めにされて、藤本といっしょに攻撃してきた。絵梨花を守るために殺した」
「何も殺すことはないだろう!」
「殺しに来ている相手に手加減する余裕などない。山口が俺を殺して、絵梨花を奪うつもりなら、山口も殺すつもりだ」
「貴様っ!」
「権田、お前も向かってくるなら殺すぞ」
「やって見ろよっ」
あっと思ったら、もう遅かった。高校生の俺は権田の足にタックルを決め、そのまま絞め技に入った。
絵梨花は加世子たち女子と談笑していて、こちらの騒動には気付いてない。サエキというもう一人の男子が止めに入って来たが、高校生の俺はそのまま権田を絞め落とした。
(高校生の俺、無茶苦茶危ない奴じゃないかっ)
「桐木、殺したのか!?」
「まだだが、このまま放置すれば窒息死する」
「御堂さん、治療してくれっ。権田が死んじゃうっ」
絵梨花たちが騒ぎに気づいて、こちらに近づいて来た。絵梨花が慌てて倒れている権田の横にしゃがんで、キュアをかけているが、キュアは外傷にしか効かない。
―― 権田は静かに息を引き取り、俺は自分の体に戻った。
絵梨花は愕然としていた。加世子は冷淡な目で権田を見ている。サエキはショックのあまりふらついて、レイアに支えてもらっていた。普通は逆だろう。
俺にレベルアップの通知が流れない。ポイントは絵梨花に行ったのか?
「ちょっと桐木くん、こっちに来て」
俺は絵梨花に連れられて、三班から離れたところで、絵梨花と話を始めた。
「今はどっちの桐木くん?」
「本物の方だ」
「権田くんを殺したのはクールな方?」
「そうだ。俺はさっきまで権田の中にいた。権田がやって見ろよと、クールな俺を挑発したんだ。そうしたら、あっという間に殺しやがった。クールな俺はロール通りの殺人鬼かもしれない。すまん、俺も本当に驚いたんだ」
「私も驚いたけど、この三日間、桐木くんは私には本当に優しかったわ。殺人鬼だとは思わないけど、冗談が通じないみたいね。私がもう少し気をつけるわ。本物の桐木くんの方はその点は大丈夫なの?」
「俺はまともだ。だが、いつ自分の体に戻れるのかわからない。市岡に憑依して市岡を助けて、さっき権田に入ったばかりだ。権田が死んで、俺に戻ったということは、次は俺の番のようだな」
「ダメよっ、それは。クールな桐木くんが約束してくれたのよ。一生私を守ってくれるって」
何プロポーズしてるんだよ、俺はっ。
「俺も同じ気持ちだ」
「ありがとう。でも、私はまだ返事はしていないのよ。もう少し時間ちょうだいね」
「一生考えていていいぞ。それはそれで面白いから」
「うん、やっぱり優しいよね、桐木くんは。安心した」
「で、三班どうする? 今ので、俺たちのことを信用しなくなったんじゃないか?」
「加世子は大丈夫と思う。
「そうだな。悪いんだけど、絵梨花から説得してもらえるか? 殺人犯の俺ではちょっとな」
「分かったわ」
俺たちは三班の方に振り返った。俺は今、気づいたのだが、ナビゲーターが一人しかいない。
「三班のナビゲーターはどうしたんだ?」
「さっきもそれ聞いてたよ。ナビゲーターはそれぞれの班の人にしか見えないらしいよ。カナが見えているのは私たちだけみたい」
「そうなのか」
絵梨花が三班を説得している間、俺はカナの方に歩いて行った。
「桐木様、何か?」
俺は市岡と同じように、右手をカナの胸に持って行った。
(ん? むにゅって?)
おかしい、通過しない。感触を確かめようと揉んでみた。
(こ、これは、思った以上にボリューミーな)
俺の記憶はそこまでだった。俺はカナに殴られて、死んでしまった。
***
「貴様、何という間抜けな奴だ。お前が死んでどうする。復活させるぞ。あまりワシの手を煩わせるな」
気がついたら、死神が目の前にいた。
「俺は死んだ……のですか?」
「そうだ。痴漢行為で死ぬとは、使者の面汚しめっ。次はないぞ。クラス全員を看取ってから死ね。よいなっ」
「あっ、し、質問がっ!?」
「仕方ないな。魂の道が塞がるまで少し猶予がある。一つだけ許す」
「俺、女子高生相手だと興奮しないのですよ。女子高生相手でも楽しめる秘訣はありませんかね?」
「知るかっ! 早く行けっ」
***
次に俺が気づいたとき、目の前に大きな目から涙をぽろぽろ流している絵梨花の顔が飛び込んできた。
「あ、絵梨花……」
「桐木くん! よかった、本当によかった!」
俺は地面に倒れていて、絵梨花が俺に抱きついて来て、俺の胸でわんわん泣き出した。
(あ、生き返ったのか)
「絵梨花、ごめんな。心配かけさせちゃったかな。もう大丈夫だ」
俺は絵梨花の背中をポンポンと叩いた。ちなみに胸がむにゅっとくっついていたりはしない。絵梨花の胸当てと俺の鎧がゴツゴツと接触しているだけだ。だが、絵梨花の小さな頭が胸の上にあって、何だかとても温かい気持ちになれた。
こんないいときに、臨終憑依が始まった。
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