♯2 白河さんは値下げされたい
「どういうこと?」
「で、ですから50パーセント引きでお買い得で――」
え? 今、自分を50パーセント引きにすると言ったの?
「
「で、ですから半額なので……」
「あっ! それともさっきの値下げ間違えちゃった?」
そうか、そういうことか!
びっくりしたー。
ミスなんて誰にでもあるから気にしなくていいのに。
「~~~っ! そ、そうなんです! ちょっと急いで直してきます!」
「どうしたの?
それと同時に
「値下げを間違えちゃったみたいです」
「あらまぁ」
「珍しいですね、あんまりミスがない子なのに」
「まぁ、
「えー、怒っても仕方ないじゃないですか」
「前のチーフはミスすると凄く怒ってたわよ」
「げぇ」
※※※
「チーフ、すみませんでした」
「大丈夫だよ、今日は作業的に余裕だから休みながらやってよ」
「……はい」
「チーフ、
「今あがったよ。何かあった?」
「い、いえ……特には……」
他の人たちは自分の作業が終わったらすぐに帰ってしまうので、夕方はいつも俺と
「あっ、そこに缶コーヒーを買っておいたからね」
「……いつもありがとうございます」
毎日、FAXで送られてくる発注書に目を通す。
うーん、来週は何を売ろうかなぁ。
イカはまだ高いなぁ……。
サーモンも値上がりの傾向だし……
「チーフは彼女いないんですか……?」
ふと
「え? さっきの
「え、えぇ! まぁ……」
「いないよ、こんな仕事をやってたら彼女に申し訳ないって。自分の時間なんてほとんどないし」
「……」
「だから、スーパーって総菜の子たちみたいに職場恋愛が多くなっちゃうんだよねぇ」
「そうなんですか?」
「そうそう」
「チーフ的には職場恋愛はありでしょうか?」
「んー?」
座っていたイスの背もたれにぐっと体重をかける。古びたパイプ椅子がぎぃと音を立てた。
「まぁ、同じ職場ならお互いの理解があるからいいかも?」
「そ、そうですか!」
「でもなぁ……
「そ、そうですか……」
「噂されるのは嫌だから隠しながら付き合うのって面白いかもね」
「そうですよねっ!!」
よく分からないけど、その様子に笑ってしまった。
「やっぱり
「ま、まぁ……」
「何かあったらシフト調整するから言ってよ。
「あ、ありがとうございます……」
俺がそう言うと
大人しい印象を受ける白河さんだが、決して不愛想なわけではない。
話しかければ反応をしてくれるし、表情だって豊かなほうだ。
持ち前の素直さもあって、仕事を教えるとぐんぐんと吸収していく。
……ここだけの話、部門責任者としては、頭の凝り固まったベテランの人たちよりもよっぽど作業指示がしやすい子だった。
「あっ、
「はい」
「午前中に出した商品はもう70パーセント引きにしていいからね」
「分かりました」
……。
……。
……あれ? また
すごく真剣な顔で、じっと俺のことを見ている。
「……チーフ」
「あれ? どうしたの?」
「あ、あの。もしチーフさえ良ければ70%引きでもいいので……」
「70%引き?」
「で、ですから!」
「うん」
「ち、チーフに私のことを買ってほしいんです!」
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