152話 炬燵
「もう温かくなったから炬燵を片付けるよ」
黒野である。休日に炬燵に入ってまったりしていたら、同じく炬燵に入っていた祖母ちゃんにそう言われたが、私はそれは困ると思った。まだあと二か月は炬燵に入ってダラダラできると踏んでいたのに、突然の死刑宣告に頭を悩ました。悩みを聞く立場にある私だって悩むことはある。
一瞬にして祖母ちゃんを納得させて炬燵を延長させる手立てを考える。今日もブラックコーヒーを飲んでいるので糖分が足りないのだが、私はもっともらしい理由を祖母ちゃんに話すことにした。
「まだ寒い日もあるかもしれないし、暫く置いておこうよ」
別に特別変った事ではなく、ありきたりな理由である。だがこう言う場合は奇をてらった理由を述べるよりも、普通の理由で納得させるのが好ましいだろう。昔の人というのは自分が考えたことが正しいと疑わないわけだから、出来るだけ分りやすい理由を叩きつけて、それもそうかも?と思わせるのが一番である。
「ダメダメ、こういうのは片づけると思った時に片付けるのが一番なんじゃよ」
クソ、もっともらしい答えで逆に返されてしまった。だがココで諦めるのは三流である。自分の居場所を守りたいと考えるなら、なりふり構って居られないのだ。私はここで最終手段を出すことにした。
「駄目、炬燵はまだ片付けないで」
それは駄々をこねることである。もうすぐ高校三年生になる私だが、時と場合によっては駄々もこねられるのだ。しかもこの場合は孫と祖母という関係性も効いてくる筈だ、元来祖母というものは孫を甘やかす傾向がある。したがって私の我儘を聞いてくれる可能性は必然的に高いと……
「駄々こねるな‼片付けるの手伝え‼」
べしっと丸めた新聞紙で私の頭を叩く祖母ちゃん。チッ、やはり一緒に住んでいて娘同然の私の駄々では効果が薄いか、実は予想はしていたのだが万に一つの可能性に賭けてみた。その結果が大方の予想通り駄目だったわけだ。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。私は駄々を続行させることにした。
「やだやだ‼私は炬燵でコーヒーをもっと飲みたい‼」
炬燵を掴んで断固拒否の構えを取る私。だが祖母ちゃんは冷たくこう言い放つのである。
「炬燵をまだ出すって言うのなら、アンタのお小遣いカットで良いか?」
どうしてそうなるんだ?バイトしているとはいえ休日ぐらいしかまともに働かない身、それ程バイト料が高いわけではない。コーヒーを安定的に飲む為には祖母ちゃんからの小遣いは必要である。こうなると私の選ぶ道は一つだ。
「さぁ、祖母ちゃん。炬燵をさっさと片づけるぞ。こんなもんがあるから人間は堕落した生活を送ることになるんだ」
そりゃコーヒー一択だ。私を誰だと思っている、黒野 豆子だぞ。ここで炬燵を選んだらタイトルだって炬燵相談室に変えないといけなくなる。それじゃあ締まらないし、毎回相談者をウチに呼んでたら大変だ。
よってここはコーヒーを選ぶ。この決定に揺るぎはない。
サラバ炬燵よ、安らかに眠れ。
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