スキル【木】と異世界転生
大寿見真鳳
第1話 目覚め
「ここは,どこだ・・・」
目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。
カーテン越しに外の日差しが差し込んでいる。
身体中がとてもだるく,軽い頭痛もしている。
今自分は,見たことも無い大きなベットに寝かされていた。
自分がベットで寝かされていた部屋は,とても広い部屋だ。
広い部屋に置かれている家具はとても高級品に思える。
体を起こして周囲を見渡すが状況が分からず,今までのことを思い返してみる。
確か営業に出かけていて,遅くなったから峠道を使って近道をして早く戻ろうとした時に,
木魂とは木の精霊の一種らしく,自分の目に映る姿は小さな雪だるまに短い手足をつけたような姿をしている。
子供の頃から木魂が見えていたため,何度も周囲に教えてみたが,誰も見えないため気味悪く思われるので,自然と誰にも言わなくなった。
だが,木魂はそんなことは関係なく,日常的に自分の周囲にいて,時々小さな悪戯をしてくる。
自分達をアピールするかのように。
悪戯と言っても新聞や雑誌を読んでいると勝手にページをめくる程度のこと。
今回なぜか営業車を運転中に,異常に多くの木魂が群がって来て前が見えなくなり,ハンドル操作を誤り車ごと崖下に落ちて強い衝撃を受けたところまでの記憶はある。
そこから先の記憶がぼんやりしている。
自分は助かったのか,なら,ここはどこだ。
その時,部屋のドアが開いてメイド服を着た女性が入ってきた。
「レン様!気がつかれたのですか」
メイド服の女性が慌てて駆け寄ってくる。
赤い髪を短くカットした少し痩せ形で20代前半だろうか。
「これは・・・」
「お屋敷の中で1週間ほど前に突然高熱を出して倒れられたのですよ。お体は大丈夫ですか」
「高熱・・・倒れる」
その時,自分の体が小さい事に気がついた。
手が子供てのように小さく,腕も短い。
40歳で170センチの体で太ってはいないが痩せているわけでも無い。
そんな自分の体が小さくなっている事に気が付いた。
壁には大きな鏡がある。
そこに映る姿は、薄い水色の髪をした男の子であり、背は低いように見える。
身長1mぐらいだろうか。
鏡に映る自分を見ていたら,激しい頭痛が襲ってきた。
頭を抱えベットの上に倒れ込む。
「レン様!!!」
頭を抱えベットの上で意識が遠のいていき,やがて意識を失った。
そこは真っ白な空間だった。
見渡す限り白一色。
そんな空間に自分がいる。
「やあ,大沢蓮君。こちらの世界の呼び名で、レン・スペリオルと呼んだ方がいいかな」
後ろから女性の声で自分を呼ぶ声に慌てて振り向く。
そこには,純白のドレスを着た女性が立っていた。
髪の毛は緑色で長く,緩やかなウェーブがかかっている。
その女性の表情は,とても穏やかでありその青い瞳に心が吸い込まれそうになる。
「慈母神アーテル様」
「覚えてくれていましたか,怒っているのでは無いかと思っていました」
慈母神アーテルはホッとした表情をする。
「いま程,全て思い出しました。感謝することはあって,怒ることはありませんよ。本来死んで終わる人生をアーテル様の世界で生きることができているのですから」
「蓮」
そこにもう1人の女性の声がした。
そこをみると黒髪の和服姿の女性がいた。
和服には色とりどりの植物や花が描かれている。
「ククノチ様」
木の神ククノチである。
日本書紀や古事記にも書かれている木の神。
「お前にはすまぬ事をした。配下の木魂たちの悪戯で命を落とすハメになり申し訳なかった」
「ククノチ様。もう終わったことです。そのおかげでこの世界を知ることができたのです。逆に感謝したいくらいです」
「本当にいいのか」
「何も問題ないです」
木の神ククノチは安堵した表情をする。
「理由はどうであれ向こうの世界で死んでしまったものの,ククノチ様とアーテル様のおかげで人生をやり直せたのですから十分ですよ。それにしても予定では10歳になる頃に記憶が戻るはずでしたが,予定よりも早く7歳で記憶が戻りましたけど,どうしてでしょう」
「それは,この世界でのあなたの両親が,公爵家の嫡男にもかかわらずあなたを見捨てたことがあなたの心に大きな心理的圧迫を与え,予定よりも早く記憶が蘇るきっかけとなったようです」
「そうですか,実母は私を産んですぐ亡くなっています。継母のことは他人だと思っています。あの人は自分自身のスキル対する知識だけで,人の優劣を判断する人ですから既に諦めています。父も継母の言いなりのようですからね」
「それで良いのかい」
「かまいません」
レンはキッパリと言った。
「私の与えたスキルのせいで,公爵家の嫡男のはずが,とてもひどい冷遇をされてしまいっている。しかも,両親は妹や弟に嫡子を変えようとしているじゃないか」
「このスキルは,誰も理解できません。私はアーテル様から説明されていましたからわかりますが,他の人たちは理解できないでしょう。私がどんなに凄いスキルだと説明したとしても,もはや誰も聞いてくれないでしょうから諦めるしかないと思っています」
「ハァ〜。あなたが廃嫡され追い出される可能性が非常に高いのですよ」
「すぐに追い出される訳ではありませんから,それまでにはある程度いただいた力を使えるようになり,自由に生きていきたいと思っていますから気にしていません」
「人の社会の中で人が使える鑑定の魔眼程度では,あなたの能力の中のスキル【木】しか見えない。称号や隠蔽された力までは見えません。【木】というスキルは,成長するととても素晴らしいスキルなのですが,最初はごく普通の木で出来たものしか作り出せないですから・・・本来であれば称号【慈母神の寵愛】を知ればそのような扱いをされないのです。なんなら教皇や聖女に神託を出しましょうか,彼らの持つ天眼であればすぐに分かりますから」
この世界でのレンの実の母は既に他界しており、公爵夫人エレンは後妻である。
父であるダニエル・スペリオル公爵はエレンに何も言えずにいる。
子供たちが5歳になると、教会の司祭たちが鑑定水晶を使い子供たちが待つ才能を調べてくれる。それは5歳になると才能がはっきりしてくると言われているからである。
継母であるエレンは,レンが5歳になると才能を調べた。
【木】という聞いたこともないスキルしかないことが分かると,レンにそのスキルを使わせてみた。
その結果,普通の木剣や木の皿が作り出せるだけでだった。
それを見た公爵夫人は,レンを無能と決めつけて、教育を施すことを止めてしまった。
しばらくは帝都の屋敷で暮らしていたが,その後,領地にある離れに移動させて押し込めてしまった。
公爵夫人の愛情は弟や妹たちに注がれる事になる。
「それは,生まれ変わる前にも断っています。そんな事になれば囚われと同じ生活が待っていますから,そんな生活はしたくありません。それは今も変わりません。私は気ままにこの世界を見てみたいですから」
「変わらないのですね。でもそれだけではこの先、生きていくのは辛いでしょうから,新たにいくつか力を与えておきましょう。生まれ変わる時にお願いしてあることを片付けたら,たまには他の私のお願いも聞いてくださいね」
「自由に生きていけるようになれば,アーテル様の願いで自分でできるものがあれば,伺いましょう」
「どうやら,時間のようです。戻ったら,誰もいないところで能力を確認しなさい」
「私には魔眼のスキルは無いですよ」
「フフフ・・・神眼を与えておきました。あとは調べてみてのお楽しみです!!!」
やがて,女神様の姿は見えなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます