現代異能剣戟を題材にした鬱エロゲの様な世界で主人公の親友枠として死ぬ筈だった男が覚醒してヤンデレなヒロインに依存されるダークファンタジー

三流木青二斎無一門

第1話 死と覚醒

露わとなった裸体を見る。

容貌は少女の様の如く童顔。

しかし。

肉体は祅霊によって魔改造されていた。

線の細い体型であった彼女の体。

祅霊を産む為に最適な肉体へと変貌している。


元の肉体は痩せ細った身体。

おうとつの無い垂直な線を描く胸元。

すとんと、滑らかな陶磁器の様に線を描いていた。


だが。

乳房に祅霊の体液を注入された事により。

女性としての魅力が、肥大化している。

少女では無く、母胎として発達していた。


更に。

肉体に植え付けられた祅霊の種子。

薬で抑えなければ、発情する様になる。


「はぁぁ…はぁぁッ…」


身体が火照り出す彼女。

熱の籠った吐息を口から漏らした。


ゆっくりと。

男の方に劣情を乗せた瞳を向けている。


祅霊の母胎として幼体を産むだけの運命だった彼女を救った…唯一の存在。


口元寂しく。

彼女は薄桜色の唇を近づけて彼の舌先を舐る。


「はむ、ちゅ…ぇら、ちぅ…っ」


水滴が弾ける音が響く。

熱と熱が絡まり、嬌声が、甘く零れ出した。


造られた肉体は、何時の間にか一人の男を悦ばせる為と化す。


雌として目の前の雄に全てを委ねようとしていた。


























題目タイトル   『斬神ざんじん斬人きりゅうど

























古から続く、祅霊ようりょうの存在。

人々を襲い、糧にする彼らは平安時代から現存し続けていた。

それは人の想いから生まれ、人が死ぬ度に多くなる。


悪鬼羅刹―――

魑魅魍魎――――

百鬼夜行―――――

魔が棲む祅霊ようりょう巣窟そうくつ


1945年の第二次世界大戦の終結後。

大量の祅霊が奔出した事で外国連中は日本を魔窟国家と認定。

旧日本国は、強制的な鎖国と化した。


時は現代、世は帯刀時代。

地に墜ちた火の神により変質した鉱石、「緋色金ひいろかね」と「青魂金アポイタカラ」を合金して鍛練した魔を裂く剣、『炎命炉刃金ひひいろはがね』。


それを使用する斬人きりゅうどが住まう国、石動京いするぎきょう

この国では炎命炉刃金を製造する…鍛神師かじしを育成している。


教育機関・『火群槌かぐつち』。

平安時代より続く歴史を持ち、形を変えて現代の組織と化した。

鍛冶師は、「炎命炉刃金」に斬神を宿す職業である。

多くの祅霊を斬り殺す事で魔の魂を薪として刀身に火を宿す。


その火が薪を燃やし続ける事で『斬神』と呼ばれる超常現象を引き起こす式神を熾す。


刃に宿る式神…故にそれは斬神ざんじんと呼称されていた。










火群槌には戦闘順位が存在する。

三十名中一位である宝蔵院ほうぞういん珠瑜しゅゆ

三十名中二位の千子せんじ正宗まさむね

主に、彼ら二人が先陣を斬って戦っている。


「…」


面倒臭そうな表情をしながら、通路を歩く奈流芳なるか一以かずい

彼はあまり戦闘に意欲的では無かった。

三十名中十五位の奈流芳一以は平均的な戦闘能力だ。

その結果は実力を出して…と言うよりかは。

その順位に甘んじていると言った具合だ。


奈流芳一以は、集中力に欠けている。

脳内では、常に終わりを求めている。


「(早く、終わらないかな)」


そんな事を考えながら周辺を警戒している。

集団で活動している皆とは少し離れた位置で静観を決め込んでいる。

奈流芳一以に対して、集団の輪から離れ、彼の元へと駆け寄る者が居た。


「なにスカしてんだよ、一以」


三十名中二位の千子正宗だった。

金色に染めた髪を揺らしながら、彼の元へ駆け寄る。


「…いや、早く終わらないかなって、思ってさ」


千子正宗と奈流芳一以は友人関係だった。

幼馴染とも言えるだろう。


実家が斬術道場を開く千子家。

孤児院育ちの奈流芳一以は社外学習として千子家で共に斬術を学んでいた。

その為、同い年である千子正宗と奈流芳一以は腐れ縁の様な関係だった。


「じゃあお前も討伐に参加しろよ、そうすりゃスグにでも終わるだろ?」


肘で脇腹を突かれる。

彼の気の抜けた表情は愛玩動物の様に人懐っこい。

指先の震えも、なんとなく忘れられそうだった。


「…いや、今更、本気出してもな」


火群槌に入学し、奈流芳一以は斬術を学んでいた。

自分の実力には、相当自信があるつもりだった。

千子正宗と奈流芳一以で、どっちが一位であるかを賭けていたのだが。

順位を定める総当たり戦。

緒戦にて、奈流芳一以は、宝蔵院珠瑜と当たってしまった。

宝蔵院家、有数の斬人鍛神師を排出して来た鍛神師の一族。

彼女と戦い、そして、奈流芳一以は敗けた。

それも、心が折れる程に凄惨に、だ。

同時に、敗北した奈流芳一以に、宝蔵院は言う。


『キミ、鍛神師に向いてないよ、…戦う事に怖いのなら、辞めた方が良い』


煽りにも似た言葉を受けた。

何処かで奈流芳一以は鍛神師としての熱が消えてしまった。

しかし、彼女の言う通りに辞めるのも癪だった。

だから、奈流芳一以は中途半端な状態で鍛神師を続けている。


「まだ、あの頃の事を引き摺ってるのかよ?」


敗けた時から、戦闘に意欲的では無くなった。

まるで怒られた少年の様に、言葉数も少なくなっている。

事実、現状の彼は幼少期の様な精神状態に戻っている。

余程、敗北が心の傷を残した様子だ。

戦う事に関して、恐怖の様なものを憶えていた。


「…良いだろ別に、それよりも、お前はどうなんだよ?」


逆に、千子正宗は彼女の強さに惚れてしまった様子だ。

現在では千子正宗は二位と言う立ち位置だが、次回の総当たり戦では逆転もあり得る。


「次で勝つ、そんで惚れたって言うんだ、マジ青春してね?」


「そうだな…その後、お前を慰める事も含めたら、青春だな」


軽口を叩く千子正宗と奈流芳一以。


「お前も次回は本気出せよ?…俺と本気で稽古してんだから、二位くらいにはなれるんじゃねえの?」


千子正宗は、常に斬術の稽古を奈流芳一以に任せていた。

戦績はどちらも五分五分と言う状態。

奈流芳一以に千子正宗は念を押して本気を出せと言う。


宝蔵院珠瑜に敗北してから。

奈流芳一以は本気を出す状態にはなれなかった。


だから。

戦績が同等の千子正宗は彼が本気を出してくれる事を待ち望んでいる。


「…俺が本気出したら、告白しちまうぞ?」


苦笑する奈流芳一以に、千子正宗は彼の胸元に拳を当てた。


「出せよ、本気、じゃねえと、振られた後、お前の前で泣けねぇだろ」


奈流芳一以だからこそ。

ありのままの己を見せる事が出来る。

生涯を通ずる親友である為だ。


「…振られる前提って、自分で言うなよ」


「もしもの話だってんだ、なあ親友」


奈流芳一以は笑いながら親友の背中を見ている。

千子正宗は本気を見たがっていた。

だが、恐らくその機会は無いだろう。


「(まるで、物語の主人公みたいだな…)」


根暗な自分とは違う根明な親友。

決して嫌味は無く、むしろ幸せを願ってしまう。

自分とは違うからこそ、憧れを抱いてしまうのだろう。

だけど、それももう終わりにしなければならない。


「頃合い、だなぁ…」


奈流芳一以は、鍛神師を辞めようとしていた。

これ以上、この組織に属した所で、奈流芳一以は再熱する事は無い。

最早、惰性で続けていた様なものだ。

宝蔵院珠瑜の言葉も、今では其処まで抵抗する気も無い。


この巣窟を終わったら、退学届けでも出そう。

孤児院へ戻り勉強をして普通の会社に勤めようと奈流芳一以は思っていた。


奈流芳一以が歩き続けると、地面の感触が変わる。


「…?」


腸の様な感触に、奈流芳一以は不思議に思った。

同時、奈流芳一以が通った通路が閉じる。


「え…ぁ」


奈流芳一以の脳内に浮かぶ恐怖。

祅霊と言う存在と、奈流芳一以が最後尾と言う事。

狡猾な祅霊は、人間を喰らう事で成長する。

貪欲な存在であれば、…鍛神師であろうとも、一人も残さず喰らうだろう。


「っ…祅霊だッ、祅霊の中だ、此処ッ」


そう叫ぶと同時。

地面、壁、天井から、数多の触手が生えて来たかと思えば。

その全てが、祅霊の腸に這入った者たちに向けて伸びていく。


「(『千景流斬』ッ、いや『火の兵法』ッ『炉心た――)」


一瞬の迷い。

それが全てを失う要因となった。


奈流芳一以に向けて触手の刺突が繰り広げられる。


「ぐぁッ!」


その一撃で、奈流芳一以の眼球が抉れたと同時、壁に叩き付けられる。

そしてそのまま、奈流芳一以の肉体は、壁に埋もれていく。


「(う、迂闊…だ、った…や、やば…)」


激痛よりも強く、阿鼻叫喚が耳の奥に聞こえて来る。


「ぎゃ、ぁあああッ」

「やめ、やめろ、お、ごぁッ」

「!た、たすけッ!べぎゃッ」


生徒たちが、触手によって無惨に殺されていく。


「(ぎ、ぁ…し、死ぬ、のか…っ、い、嫌だ、死、死にたく…ッ)」


その声を聞きながら…奈流芳一以は、意識を失っていった。





数分前。

前衛の地点。


「あ、あのッ!宝蔵院さん!!」


声を掛ける一人の女性。

彼女の声に対して、宝蔵院珠瑜は何も答えない。


「え、ぇっと…宝蔵院さんは、なんで鍛神師を、目指して…いるの?です?」


再度質問。

やはり…何も答えない。


「あ…えぇと、私は、あの、憧れている人が居るんです、斬人ですけど…世界最強の!不破一鉄斎先生みたいになりたくて…」


まるで其処に何も居ないかのように接している。

それ以前に、宝蔵院珠瑜は気配を感じていた。

空間が変化している。

石碑の様な壁は、腸の様な弾力に変わっていた。

最初から、空間そのものに擬態していたのだろう。

だから、気が付くのに遅れたと、宝蔵院珠瑜は思った。

同時、其処には壁から生える触手が見えた。


「っ!?祅霊ッ」


刀を引き抜く。

切り掛かろうと刀を振る寸前で…祅霊の触手が刀を弾いた。


「ひッ」


刀を弾かれた一人の女子生徒。

恐怖で後退り、尻持ちを突く。

触手の先端が刃と変わると、女子生徒を突き刺そうと飛び出した。


「(『兵法へいほう』)」


肉体から溢れる命の火。


「(『炉心躰火ろしんたいか』)」


それを体内で循環させる事で、身体能力を上昇させる。

強く地面を蹴ると共に、白銀の少女は刀を振るう。

一瞬にして触手を切り裂くと、彼女は刀身を鞘に納める。


「…」


宝蔵院珠瑜。

総当たり戦にて、一位の席に着く彼女。

他の鍛神師よりも実力が上である彼女の実力はこの程度のものではない。


既に、鍛神師として複数の炎命炉刃金を製造した彼女は、新しい刀を手に取り、戦闘を続けていた。


「…ねぇ、そんな実力で、どうしてこんな危ない所に来たの?」


苛立ちを隠せない様子で、宝蔵院珠瑜は女子生徒に冷たく言い放つ。

彼女は、俯いたままだったが、刀を掴むと立ち上がる。


「…今は、弱い、けど…きっと、これからッ」


彼女の目には涙が溜まっていた。

先程の戦闘で恐怖し、委縮していたかと思えば、未だに戦闘の意思と言うものが感じ取れた。


「…力が弱いと、こっちが危険なんだけどなぁ…」


溜息を口にしながら、前方を歩き出す。


「何時か、貴方にだって、追いつい…」


最期まで彼女が言葉を口にする事は無かった。

そして、女子生徒が言葉を遮った事に対して、不審に思った彼女は振り向く。


「…っ」


その女子生徒は首から先が消えていた。

首先から血を流しながら、立ち尽くしていた女子生徒は、ゆっくりと倒れていく。

先程、倒した筈の触手が、壁や、地面から生えていた。


「(壁が動いた…もしかして)」


刀を引き放つ。

一瞬、焦りを浮かばせた彼女は、肉体から命の火を放出しようとして。


「うッ!」


宝蔵院珠瑜は頭部を殴られた。

一瞬、意識を失う彼女は、手から刀を離してしまう。

頭部から血を流している彼女は、そのまま地面に倒れた。

視界が白黒に変わる最中、彼女の足首を掴む、生暖かい腸の様な感触。


「ぇ…」


薄桃色の触手が、彼女の体を引き摺り、巣窟の奥深くへと連れて行く。

彼女の手元から刀が離れていく、地面に引き摺られる彼女は、潤滑液を塗った合成樹脂の様な質感を肌で感じていた。


「…ぇ、あ」


頭部を殴られた衝撃は次第に薄れていく。

足首を掴まれた彼女は持ち上げられていき、そして宙吊りとなった。

スカートが捲れる、黒色のタイツと、白色の下着が露わとなる。


「…は、ぁッ…? !?」


そして宝蔵院は漸く意識を取り戻す。

顔を上げて、自分が触手に捕まった事を悟った。


「く、ッ離しッ」


抵抗しようとする宝蔵院。

しかし、触手は暴れ出す彼女の両手を縛り付けて行動を制限させる。

触手が彼女の肉体を這っていく。

蚯蚓の様な触手から分泌される液体が、彼女の衣服を溶かしていった。


「な、ぁッ ぐぷっ?!」


開いた口に触手が突っ込まれる。

その先端から体液が分泌されると、彼女の肉体に無理矢理流し込まれた。


「んぐぁッ…けほっ…はっ、はっ…?!」


体液を流し込まれた事で、彼女の肉体は重たくなる。

体中が熱くなって、段々と、肉体が内側から撫で回される感覚を覚えた。


「い、や…ァ」


部屋中の壁から、多くの触手が生え出した。

それらは、体液によってぬめりだして、数え切れない程の触手が、宝蔵院を狙っている。


彼女は理解している。

人の死によって産まれた祅霊は、その死ぬ前の願いを抱いて生まれる。

死の寸前の願いとは、人間の欲が色強く出る。


それは、三大欲求が根本ともなるだろう。

安らかに眠りたい。

色んな食べ物を食べたい。

…もっと、性欲を発散させたい。

生物として基本的な死が間近になると子孫を残したいと言う衝動。


極めて原始的な願いが、祅霊の活動原理となる。

そして…この触手たちは、性欲を発散させ、子孫を残す、と言う行動に忠実だ。


彼女は、その母胎として選ばれた。


逆を言えば。

母胎として最適では無い者たちは不要であると言う事。

肉体を破壊し、生命としての活動を終わらせる。

その後、遺体を栄養素として吸収する事で更なる肥大化を行わせる。

火具槌の総勢三十名の鍛神師たちは触手によって殺され、肉体が壁に埋もれる。


肉体を消化されていく彼らは、生命を失った遺体から順番に吸収されていた。

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