現状確認

 俺は桜音 恋次16歳。

 男子高校生だった筈……だ。


 今俺は改めて洗面台の鏡の自分と向き合っている。何かの間違いでは?もしかしたら夢なんじゃないかと思い、もう一度自身の身体を見下ろす。


 しかし、そこには以前の俺には無かった柔らかそうな山が2つ程あったが、まぁそんなことは些細なことだ。それよりも気になることが沢山あった。


「どうせならもっとぽっちゃりとした子が良かった…」


 そう、俺は何を隠そうともデブ専なのだ。


(おデブの何が悪いんだ!ぽっちゃりして丸くなった二の腕は愛らしいし、段々になっているお腹もプニプニと柔らかそうでとても良い!男の時は誰一人として共感してくれる人はいなかったけど、折角女性になったのなら気兼ねなく俺好みのぽっちゃり系マシュマロ女子を見つけられるぞ!!)


 そう意気込んだは良いが、それはそれとして今俺はいつも股間にあったものが無くなってしまったので喪失感に苛まれている。まあ三秒で立ち直ったが。


「まあなってしまったものはしょうがないし、取り敢えず現状確認でもするか」


 そう思い至り、自分の部屋に入る。すると、すぐに異変に気づいた。


「あれ?俺の部屋ってこんな感じだったっけ?」


 俺の部屋は8畳程の広さに、扉を開いてすぐ右手側にベッド、左手側に机と椅子、ゲーミングPCなどを置いていて、ベッドの横には寝ながら読めるようにと、本棚がある簡素な部屋だった筈。


(…どうゆうこと?)


朝は寝ぼけていた為気づかなかったが、全ての家具が女物に変わっていた。

 鈍色のベッドは、空色の水玉模様の可愛らしいものになっていて、枕の側にはクマや犬、猫などのぬいぐるみが置いてある。

 ゲーミングPCも色がピンクになっており、本棚の本もほぼ全てが恋愛小説や少女漫画、女性向け雑誌などに変わっている。他にも俺の持っていなかった物が沢山置いてある。

 家具の配置こそ特には変わってはいないものの、別の部屋と言っても良いぐらいの変わり様だった。


(でもそういえば、兄さんは俺のこと華恋って言ってたな……この部屋は俺が女性になった影響なのか?)


「まずは今の俺の状態について調べた方が良さそうだな」


 それから机の引き出しを漁るとすぐに小中学校のアルバムを見つけた。


◇◇◇


「今の俺は、桜音華恋って言うのか」


 色々見て分かったことだが、どうやら今の俺は元々女性として生まれたみたいだ。

 そして、今は私立猫之宮高等学校に在籍している16歳の高校一年生みたいだ。

 今現在の暦は、まだ5月。

 まぁ今日一日休んだぐらいのことでは、 そんなに大事にもならないだろう。

 それよりも俺には、このアルバムを読んでいて気になることがあった。


「女性しか写ってないなぁ…」


 そう、アルバムのどのシーンを見ても女性しか写っていないどころか男性が1人もいないのだ。


(もしかして男性が居ないのか?)


「いや、それよりは今の俺が小中高を女子一貫校に通っていたから関わりが無かったという方があり得そう。後で兄さんにでも聞いてみるか」


 そう結論を出したタイミングで着信音が鳴った。慌てて携帯を探すと、ベッドにあるクマのぬいぐるみが抱えていた。


(なんでぬいぐるみが携帯抱えてるんだ?)


 そんなことを思ったけれど、ささっと携帯を開いて見てみるとメッセージアプリNYAINに通知が来ていた。


七海:華恋さん大丈夫ですか?今日はお休みだって聞きましたけど、心配なので今日学校終わったら様子を見に行きますね。


「ええっ!?返事も返してないのにもう決定事項!?まだ面識も無いんだが!?

どうすれば……取り敢えず返信した方が良いよな?」


(今の俺は元々女性だったんだし、あまり違和感のない女性らしい優しい言葉遣いを意識して…)


華恋:少し体調が悪いだけなので、わざわざ来てくれなくても大丈夫ですよ。心配かけてすみません。


「送信っと。こんな感じで大丈夫…かな?俺の知ってる女性像を真似したから、大丈夫だと思うけど……」


 爆速で返信が来た。











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