第44話 イチャイチャって何だろう
「……いい!」
衣装、メイク、ウイッグが完成した祥太と智紀が並んでいるのを見た幸田が、感激するように言った。
「二次元が……三次元に……」
「幸田さん、拝むのはやめて」
恥ずかしくなって智紀は幸田に言った。そんな様子を見て、茉莉花は満足そうに頷いた。
「我ながらなかなかじゃん。ちょっとまずはソロで撮らせてね。まずはハルのお兄様から」
茉莉花に指示されて、祥太は部屋の縁側に近いところに立たされた。
自然光をライト代わりにしているのだろうか。
顔に影が出来て、不自然な厚化粧がかえって映えている。
「ちょっとハル、もう少しこっち向いて。そうそう、でも目線はそっち。そう!」
茉莉花は指示を出しながら、祥太を撮っていく。
「なるほど、茉莉花さんは2話の扉絵の姿で撮りたいんですね?」
「そうそれ、お兄様わかってんじゃん!」
茉莉花は嬉しそうに言う。
妙に撮られ慣れしている祥太は、スムーズに撮影をしていく。
「じゃ、次弟ちゃんね」
茉莉花に呼ばれて智紀も縁側の近くに行く。
「ちょっとだけ、お兄様そのままそこにいてちょっと屈んで。そんで、弟ちゃん、ちょっとそこに座って。梨衣ちゃん、電気つけて、この懐中電灯で二人を照らしてくれる?」
茉莉花の指示通り智紀はそこに座り、祥太は屈む。
すると茉莉花は、「このまま動かないでよ!」と言って、外に飛び出した。
少しすると、縁側の外からパシャ、パシャ、とシャッター音が聞こえる。どうやら縁側の外から取っているらしいが、障子が閉まっているのでこちらの様子は見えないはずだ。
なぜ外で撮っているのかわからないまま、動かないでいると、またバタバタと茉莉花が戻ってきた。
「もう動いていいよー」
そう言うと、茉莉花はさっき撮った写真を、二人に見せた。
「うわ、これ」
影だ。
障子には二人の影が写っており、それがまるで顔を近づけてキスしているかのようである。
「なるほどな」
祥太は感心している。
「イチャイチャしないで、イチャイチャさせる。なるほどなるほど」
「まあ、ちょっとくらいはくっついてほしいけどね」
茉莉花はちょっと笑う。
「ま、こんな感じで。無理のない範囲で頑張っていこう」
その言葉で、本格的に撮影が始まった。
茉莉花の指示のもと、いろいろなポーズを取らされ、そして撮影されていく。
ちょっとだけ楽しくなってきた頃、茉莉花から休憩の合図が出た。
「一回休憩しよっか。汗とか拭いて。おやつ食べよ」
そう言って、タオルとペットボトルのお茶をくれた。
智紀がタオルで汗を拭いていると、祥太がまんじゅうを差し出してきた。なのでそのまま祥太の手から直接まんじゅうにかぶりついた。
「ちょっと!」
茉莉花から鋭い声が上がって、智紀は思わず飛び上がった。
「な、何」
「なんで許可無くお菓子あーんしてるの!?カメラ構えてなかったじゃん!」
「いや、あーん、っていうか」
「今のはあーんとかいうカップルのやる行為ではありませんよ。子供に菓子を与える親の行為のようなものです。しいて言うなら介助に近い」
祥太も茉莉花の抗議に反論する。
茉莉花は頬を膨らませる。
「あー、ナチュラルにそういうことしちゃうんだ!くそ、この戦い、気が抜けねえぜ」
「狭山」
興奮している茉莉花に向かって、ダルそうな声で米村が呼びかけた。
「問題ない。俺、さっきの撮ってる」
「きゃー!さすが米村っち」
茉莉花は、はしゃいだ声を上げた。
「竹中くん、意外にイケてるよ。頑張ってる頑張ってる」
休憩中、幸田が智紀のそばに寄ってきた。
まんじゅうをほおばる智紀に、ペットボトルのふたを開けてやる。
「ありがとう。けっこうおもしろくなってきたかも」
「乗り気じゃなかったのにね」
幸田が茶化すように言うと、智紀は少し笑った。
「何か、こうしてみんなで何かするのって、面白い。幸田さんも俺も味方でいてくれて心強かったよ」
「へへへ。私も竹中くんのおかげで面白い体験できて楽しいよ」
幸田は、にへへ、と笑いながら智紀の隣に座った。
「それにしても、イチャイチャってよくわかんねえよな。難しいよな」
「まあね。イチャイチャって何なんだろうね」
「お前たちが今一番イチャイチャしているんじゃないのか」
哲学的な表情を浮かべて見せている高校生二人に、祥太は思わずそう言いたくなった。
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