計画。そして問題

第24話 気合い

 ※※※※

 その日、また智紀はさち子の部屋で幸田に勉強を教えていた。今度は化学の再テストが控えているらしい。

 熟睡しているさち子の横で、二人はテキストを開いていた。


「これは難しそうに見えて実はただの単純なモル計算をするだけだから」

「私、モル計算できないけど」

「まじかよ。モル計算できなくてどうやって化学のテスト受けてんだよ」

「気合い」

「じゃあ気合いでモル計算覚えようぜ」

 智紀の言葉に幸田は顔をしかめながら、勉強を進めていく。


「そう言えば、今週末打ち合わせしようって茉莉花さんから連絡あったんだけどさ、幸田さん来る?」

 休憩タイムで、智紀はカレンダーを見ながらたずねた。幸田もカレンダーを見てがっくりとうなだれた。

「あー、ごめん、今週末は用事入ってるわ」

「あ、そう」

 智紀は素っ気なく言いながらも少し不安げな顔をしてみせる。

「なんだよお、そんな捨てられた子犬みたいな顔して」

「そんな顔してねえよ」

 智紀はブスッと答える。

「ただ、今回は兄貴も仕事で欠席なんだ」

「一人だと寂しい?」

「違うって。何か最近、兄貴の様子がおかしくてさ」


 茉莉花から、次の打ち合わせについての連絡が来た時、祥太は気のせいかホッとしたような顔を浮かべていた気がするのだ。

 そして、次の打ち合わせには自分は行かないと言い出したのだ。

「ちょっと早めに解決したい案件があるんだ。あと、前に茉莉花さんの事でちょっと失敗してしまったので少し距離を置きたい」

「失敗?」

 祥太が女のコの事で失敗するようなことなど、少なくとも智紀は聞いたことがなかった。 

「一体何しでかしたんだよ」

「まあ、俺もまだ若いってことだ」

 フッとあさっての方を見る祥太は、それ以上何も話すつもりは無さそうだった。


「なんか、もしかして茉莉花さんと喧嘩とかしたのかなって思ってさ。それだったらなんか俺まで気まずくなりそうじゃん」

「お兄さんと竹中くんは別人格なんだから気にしなくてもいいんじゃない?ってか、喧嘩してても別にいいでしょ」

「兄貴は女のコと喧嘩したことなんてない」

「そんなバカな」

 幸田は呆れて言った。

「まあ、どっちにしろ普通に打ち合わせがあるんだから、喧嘩してたとしても大したことじゃないって。大丈夫大丈夫。一人で頑張っておいで」

 そう言って、幸田は煎餅をバリバリ食べる。

「次の打ち合わせは何かなー。衣装かな。あ、その前にどのシーンを撮るかだよね。いや、それよりまだ配役が決まってなかったか」

 能天気に話す幸田に、智紀はムスッとして煎餅を取り上げた。

「あ、まだ食べてるのに」

「さっさと早く続きの問題解くぞ」

「ちえっ、鬼軍曹再び」

 ぶつくさ言いながら、幸田はまたテキストに向かった。


 智紀は勉強を教えながら考えていた。


 ――絶対に祥太と茉莉花は何かあったと思う。だいたい、あの急な耳齧り事件だって、茉莉花を送っていった後だった。あんな事をするなんて、よっぽどなんかあったに違いない。


 祥太に聞いても答えてくれないだろうから、次に会った時に茉莉花に直接聞いてみるの決めていた。

 ただ、正直一人だと不安だったから幸田も来てくれればいいなと思っていたが仕方が無い。

 ちゃんと自分で突撃するんだ!

 智紀は内心決心していた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る