第14話 味方でいて欲しい

※※※※

「そんな面白い事になったなんて!何で私は呑気に小テストなんか受けてたんだよぅ!!」

 後日話を聞いた幸田は、悔しそうに呻いた。

 智紀の家の近くにある公園。この辺は学校の知り合いがほとんど来ることはなく、ここでは幸田も気楽に智紀と話をしてくれる。


「数学がいけないんだ!!でも明日も補習……それも再テストあり……うう」

 公園のベンチに座りながら、グッタリとする幸田に、智紀はふと、祥太が言っていた事を思い出して提案してみた。

「よかったら、俺、教えようか。今回の範囲くらいなら結構点数取れてたし」

「え?本当?」

 幸田はぱっと顔を明るくさせた。

「助かるよぉ。昨日もあんまり分からなすぎて、数学解説動画とか検索してみたりしたんだけどさ、ほら意思の弱さが災いして、つい違う動画に逃げちゃったりしてさ」

「それは自己責任じゃん」

 智紀は苦笑いする。幸田は真剣な顔でカバンを開いてノートを取りだした。

「でもマジでお願いしたい。このままだと再々々テストまで行く予定だったから」

「うん、いいよ。あー、その代わりさ」

 智紀は幸田の顔をジッと見つめて近づいてきた。幸田は思わず赤くなってしまう。

「な、何よ」


「その代わり、幸田さんだけは、俺の味方でいて欲しい」


「はぁ?」

 幸田は真っ赤になったまま、真面目な顔でわけのわからないお願いをしてくる智紀の顔を両手で押し返した。

「何すんだよ」

「こっちの台詞です!そんなキレイな顔でそんな言葉言われたら、私の母性本能が飛散するわ!」

「だ、だってさ」

 智紀は情けない顔で幸田に訴えた。

「兄貴は口がうまいし、俺は流されやすいし。何かこのままだと、どんどん言いなりになりそうっていうか。誰か味方がいないと不安っつーか」

「はあ」

「だからほら、幸田さんは味方でいてくれるって思うだけで安心するっていうか」

 しどろもどろになりながら必死で言う智紀に、幸田は呆れ顔で笑った。

「何ていうか、情けないなぁ」

「うるせえ」

「でもわかる。味方って欲しいよね」

 幸田はそう言いながら、自分の数学のノートを智紀に渡した。

「いいよ。勉強教えてもらう代わりに、味方でいてあげるよ。まあ私なんかが味方でいたって、雀の涙くらいの戦力だろうけどさ」

「そんな事ねえよ。そう言ってもらえるだけで心強い」

 智紀はホッとしたように頷いた。


「じゃあ、早速どこが駄目か見ていくか」

 交渉の鍵となった、幸田の数学のノートを開いた瞬間、智紀は真っ青になった。

「おい、これ、え?幸田さんって数学授業出てたよね?」

「出てたよ」

「全然何も書いてないじゃん」

「問題と答えは書いてるよ」

「解き方は?」

「先生なに言ってるか分かんなくて書いてない。あ、一応ちょろっと要点みたいなのは書いてるでしょ?」

「書いてねえよ。全然足りねえよ。よし、今からうちでやる」

「えっ?男子の家にお邪魔なんて……竹中くん意外に強引……」

「いやいや、これ公園でチラッと教えてどうなるレベルじゃねえから。ほらうち近いから!行くよ!」

「やば、竹中くんの方が本気じゃん」

「もう一回補習受ける羽目になりてえのかよ」

「すみません!やりたくないです!!」


 幸田は、ノートを持ったまま大股で歩いていく智紀を慌てて追いかけていった。








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