「今日は早退します」

と震える声で伝える。

相手は「どうして」だとか「なぜ」だとか色々と理由を聞いてくるけれど、返せるほど頭の中は落ち着いてはいない。

早くこの場から立ち去りたい。

ただそれだけしか考えられない。


施設から外に出て、すぐそこの公園で30分、1時間くらい座っていればきっと元通りになるはずなので、「休憩したい」と言えばわざわざ早退をする必要はないが、それはこの文章を書いている、落ち着いた状態だから言えるのであって、あの場では難しいのだ。


「やかましい。うるさい。」

語彙力がない私が頭の中を伝えようとすると、こういう事しか言えない。

本当はもっと複雑で、もっと喧しくて。

この言葉を表現できない気持ちの悪さもまた具合悪くなってしまう原因なのかもしれない。


語彙力を高めようと本を読むようにしていた頃もあったのだが、今はもう文庫本を全くと言っていいほど読んでいない。

理由は読み始めると文字が上下左右にブレてしまい、酔ってしまうからだ。

この現象は学生の頃からあったことだが、当時はそこまで気にならずに「みんなこんなものか」とか「若さ」で乗り切っていた。

しかし、体調を崩し、衰えを感じ、嘔吐恐怖もある今の自分にとって「本は酔うもの」という式が完全に出来上がっている。


お酒が飲める人に例えるならば、「気持ちよさなどない」悪酔いする酒。

だれがこんなものを好き好んで飲むだろうか。


「やかましい。うるさい。」

が今夜もやってくる。

寝る前には必ず薬を飲む。

「気持ちよさ」のある好き好んで飲むもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る