第4話

「取り急ぎ、受け取りの手続きを命じます」


 執事の快刀乱麻はインカムで素早く部下に指示を出した。彼はこの仕事にやりがいを感じていた。ありとあらゆる問題を解決できる能力を兼ね備えた彼は、果報に降りかかる幸福をすべて処理することに達成感を覚えていた。こんなに退屈しない雇用主は果報くらいのものだ。至上の喜びと言ってもいい。

 

「お茶も淹れましょう。少々お待ち下さい」



 執事はまた音もなく出ていった。閉まったドアをぼうっと見つめ、果報は先程告げられた1等の当選金額を思い出す。15億ドルだと電話の主は言った。約1700億といったところか。

 また残高が増える。適当に寄付でもしようか。


 果報の欲しいものは何でも手に入る。

 どうとも思っていないものすら手に入る。

 世界は一族にとってあまりにもイージーモードで、退屈で、だから果報は最近新たな望みを抱いていた。


「もうこれ以上お金はいらないのよ!

 わたくしは、私は……」


 バン! とバルコニーに続く窓を開ける。


「謎を解きたいのーー!」


 声は、東京ドーム20個分以上ある敷地に吸い込まれていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る