第59話 急成長するダンジョンコア

「分裂したコアが、10個ほどって……」


「正確には、12個だったかしら。1回の分裂で2つになるとは限らないのよ」


 単純にダンジョンコアの力を示すのは、大きさと輝き。60階層で人の頭ほどの大きさまでに成長した第6ダンジョンのコアと、まだ8階層しかないが拳程の大きさで12個ある第13ダンジョンのコア。

 どちらが力が強いかとなれば……考えたくない。想像を遥かに上回る成長には、不測の事態が必ず起こる。


「マリアナ、コアに何かしただろ。俺が見た時は、1個しかなかったんだ! それがこんな短期間に増殖するなんてあり得ない。なあ、マリク」


 第13ダンジョンが出来上がったばかりの時に、俺もマリクも真っ先にコアを確認している。同じダンジョンの黒子天使であっても、コアは誰でも存在を知って良いものではなく、迂闊に近づけば大惨事を引き起こす。

 過去に、多くの熾天使や黒子天使達が、ダンジョンコアの力を解明し利用しようとした。その度に災厄が訪れ、最悪の場合はブラックアウトを引き起こす。

 だからダンジョンのコアの周りには強力な結界やトラップ、または守護する魔物を配置している。それはコアも守る為ではなく、災厄を起こさないための手段。


 だが、俺たちの知らない未知の知識と規格外の力を持つマリアナなら、何をやってもおかしくない。そんな危うさを感じている。


「疑り深いわね。たかが聖女ごときで、コアに影響を与えれるわけないでしょ。ねえ、ザキーサ」


「ああ、余にも不可能じゃ。マリアナごときでは、コアに触れることすら出来んだろ」


「ええ、トカゲさんは怖くて近寄りさえしないものね」


 話を振られたザキーサもマリアナに同意するが、それと同時に自身の方が力が上であると付け加えてくる。それに対して応戦するマリアナ。終わりの見えない舌戦が始まってしまう。


 唯一、コアに影響を与えられるのは熾天使のみ。それならばブランシュに聞くしかなく、目の前の1人と1匹を放置して、ブランシュの部屋に向かう。


「先輩だけズルいっすね。オレもついてくっすよ」


 コアよりも、ダンジョンマスター室でありブランシュの私室に興味津々のマリクが、便乗してついてこようとする。


「ここからは、俺とブランシュの話じゃない。ダンジョンマスターと司令官との話し合いだ。知らなくてもイイこともあると思うぞ」


 ブランシュがダンジョンに何を願うか。それによって、このダンジョンの性格が決定される。


 熾天使になることを夢見てきたブランシュだったが、都合良く天界から放逐されてしまった。第6・7ダンジョンがブラックアウトしなければ、いずれは次の熾天使として1つのダンジョンを任されていたに違いない。しかし、天界はブランシュを都合の良い捨て駒として利用した。


 常に笑顔でいるブランシュだが、俺にだけ見せた悲しげな表情。ブランシュの本心を聞けるのは俺しかいない。今まで触れずにきたが、覚悟を決めブランシュの部屋をノックする。


「はーい、レヴィン。入ってきて」


 ブランシュは、ノックの音で俺が来たかことが分かるらしい。そして、ブランシュの部屋に入れば、真っ先に目に入るのは膨大な書類の山。

 あくまでも、このダンジョンはブランシュのダンジョンであり、俺はブランシュのダンジョンを運営する事務方の責任者に過ぎない。形式であったとしても、ブランシュの決済が必要になる。


「待ってね、レヴィン。昨日の分は、もう少しで終わるの」


「ああ、慌てないよ」


「ザキちゃんが居れば早く終わるんだけど、何時もどかにいっちゃうのよね」


 小気味良く紙を捲る音と、判子を押す音が聞こえる。どうしても上位以外のダンジョンは、判子社会になってしまう。ダンジョンの広大な空間を機能させるためには、サーバーやパソコンには少しでも多くの空き容量を確保しなければならない。だから、全てを紙へとして出力し、物として保管される。


 みるみるうちに目の前の書類の山が減り、ブランシュの後ろに新しい山が出来上がる。書類の内容は全く見ずに、ひたすら紙を捲り判子を押すという競技にはなっているが、それには触れない。


「うん、どうしたのレヴィン?難しい顔してるわよ」

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