第50話 ヒケンの森の防衛計画

「第9班、B7から9エリアの転移トラップの再設置完了」

「第4班、A3・4エリアの監視モニターの設置完了」


「第9班は第12班の応援、第4班はそのままタカオの岩峰の監視に当たってくれ」


 次々とヒケンの森に散らばった黒子天使達からもたらされる報告。迷いの森を作り出していた転移トラップのマジックアイテムを再設置し、新たな監視モニターを新設している。


「先輩っ、予定分は全て設置完了っす」


「よしっ、タカオの岩峰の様子はどうだ?」


 マリクがモニターに映し出すタカオの岩峰の黒い霧は、次第に濃さを増し禍々しくなっているが、まだ大きな動きは見られない。


「今のところ、動きはなさそうっすね」


「よし、今の内に転移トラップの動作確認を済ませるぞ」


 迷いの森を作り上げていた転移トラップは、ヒケンの森全体の侵入を防げる程の数はない。だから設置したのはヒケンの森でもタカオの岩峰側のみで、それも間隔を限界まで広げている。少しでも設置位置にズレがあれば、魔物に侵入を許す可能性がある。

 魔物の侵入を遅らせ時間稼ぎにしかならないが、その少しの時間が最悪を避けることもある。


 不眠不休で丸2日がかりでマジックアイテムの設置をしている中でザキーサの姿は見えず、恐らくはどこかで惰眠を貪っている。

 マリアナの方は聖女らしくミショウの治療を行っている。魔法で治癒することは簡単らしいが、時間をかけて自己治癒させた方が、回復後に能力が強化することがあるらしい。


「先輩っ、全て完了っす。タカオの岩峰にも動きもありません」


「そうか、重傷を負っているフジーコなら、堕天使となっても直ぐには動けないのかもしれないな」


 マリアナを横目で見れば、俺から逃げるようにして居なくなってしまう。ハッキリ言って、ザキーサもマリアナも力が強すぎる為、俺達と判断や価値基準に差異があり過ぎる。

 地竜のミショウを子供扱いするが、あくまでも基準となるのは末端の黒子天使であったり、ヒケンの森にすむ人々で、その事が分かって貰えたのなら実りがあったと思える。


「しばらくは大丈夫かもしれないっすけど、これからどうするんすか?魔物が襲いかかってくれば、ヒケンの森にはかなりの損害っすよ」


「それなら、1つ考えがあるんだ」


 それは、ヒケンの森にでなくダンジョンの中に街をつくるということ。ヒケンの森であるからこそ対処する範囲が広がる、しかし、これがダンジョンの中であれば全く問題がない。

 ましてやダンジョンの1~3階層までに出現する魔物は、最弱の吸血虫。殺す力は持っていないし、虫除け1つで問題は解消される。


「ザキさんを探してきてくれ。至急で作って欲しいものがあるんだ」




 第6ダンジョンの最下層にある会議室に、不機嫌さを露にしたマリアナが居る。会議室の机に置かれたのは、オレンジ色のカボチャ頭の被り物と、黒い天使の翼。


「これを私に被らせようっていうの?私は聖女なのよ、分かってる?」


「元聖女じゃないのか?ステータスを確認すれば簡単に分かるぞ」


「それは絶対にさせないわ。個人情報は絶対に見せないの。どんなに親しい関係でも、やって良い事と悪い事があるのよ」


 黒子天使の鑑定眼スキルを警戒して、マリアナは過剰な反応を示す。やはり、カーリーのスリーサイズや体重までが見えてしまったことの影響は大きい。


「分かった。仮にまだ聖女だったとしても、やってダメな理由なんてないだろ。ヒケンの森の連中を助けるんだ」


 元であったとしても、俺の想定内の聖女であれば問題なかった。しかし、マリアナの能力は高すぎるが故に、価値観がかけ離れている。それでは、聖女としてヒケンの森の人々を導くのは難しい。

 それならば、逆に圧倒的な力を利用した方が計算し易い。魔物のフリをして襲いかからせる。トレントやドライアドの力を利用して、森からの逃げ道を塞ぎ、強制的にダンジョンへと誘導する。


「これは、マリアナにしか出来ないんだ。俺達じゃ力が足りない。ザキーサにだって不可能なことなんだよ」


 しかし、マリアナは渋る態度は変わらない。


「洋菓子店ブ・ランシュは、ダンジョンの中に移転させる。そうすれば、いつだって自由に出入り出来るようになる」


「分かったわ。1度だけよ」

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