第2話 黒子天使の仕事
天使には2種類ある。
頭に白く輝く輪っかのあるハロ持ちの天使と、黒い輪っかのある裏方の黒子天使。
ハロ持ちの天使は、地上の人々に神の天啓を伝える。また、勇者となる者を見極め加護を与えると、ダンジョンの奥へと誘う。そして、ダンジョンの中で待ち受けるのが裏方となる黒子天使。
「マリク、あのチビッ子が勇者だ。まぐれ当たりでも死なせるなよ」
「あい、分かってやすよ。ミショウの旦那にも連絡済っすから安心して下さい」
「それが心配なんだよ。ミショウのため息程度のブレスだって全滅させる可能性があるんだからな。そうなれば、また一からやり直しだぞ」
正面のモニターに映し出されている6人パーティーの冒険者。戦斧を担いだリザードマンの戦士に、二刀流のヴァンパイアの剣士、ケモミミのある狩人、エルフの魔法使い、桃色髪の聖女。そして、最後の1人がヒト族の勇者。
熾天使であり第6ダンジョンのダンジョンマスターのフジーコに、勇者として認められて加護を与えられたヒト族の少年ターム。
対峙しているのは、このダンジョンでも最強種の一角を担う地竜のミショウ。ダンジョンに潜り、初めて出会う竜種でもあり、最初に立ちはだかる大きな壁ともなる存在。
勇者パーティーは壊滅状態に近く、完全に追い込まれている。全ての攻撃や魔法は、地竜の鱗に掠り傷を付けることも出来ずに弾き返され、逆に地竜の腐食のブレスで勇者達の装備はボロボロになっている。
「でも、まぐれ当たりなら許される気がするっすよ。リア充爆ぜろっすね」
マリクがそう言う理由は、少年以外のパーティーメンバー全てが女のハーレムパーティーであること。これも熾天使フジーコによって仕組まれたものであるが、マリクにとってはリア充勇者にしか見えていない。
地竜ミショウのブレスによって、仲間達の大きく露出してしまった肌と苦しみ悶える声。それが、少年勇者の心を奮い立たせている。
「そんな、羨ましくなる程でもないだろが」
「そりゃ、先輩が特殊っすよ。幼馴染みがブランシュさんなら、何を見ても魅力は感じないでしょうね」
『レヴィン副司令官。勇者タームが、ペルセウス流星剣の予備動作に入りました』
ここで俺達の話を遮るように、現地の黒子天使から報告が入る。
「アホな話はお仕舞いだ。そろそろ詠唱が始まるぞ」
唯一無事で残っている勇者タームの持つ白く光る剣。それは熾天使フジーコが与えた聖剣ペルセウス。そして予想通り、少年タームが聖剣を天に翳して詠唱を始める。
必殺の一撃を放つには、予備動作と詠唱が必要となる。それは、黒子天使達への合図でもあり、スタンバイする為の時間稼ぎでもある。
「ここで死なせたら、今月の休みは無くなると思え」
「そりゃ、無いっすよ」
少年勇者の持つ聖剣ペルセウスは、ただの光る剣でしかない。聖剣と言われる秘密は、それに合わせて黒子天使達がフル稼働で動くからである。
「タームの肉体改造率は、どれくらい進んでいる」
「現在35%すっね」
「タームの肉体が、カシューのペルセウス流星剣に耐え得る可能性は?」
「現状48%。最大限に回復魔法を行使すれば85%まで上昇するっす」
「よし、回復魔法を最大限に発動後に、カシューの憑依を許可する」
勇者タームの詠唱が終わると、傷だらけでボロボロだった体が回復し、体全体が白い光で包まれる。
「黒子天使カシューの憑依完了」
「出力80%までだ。全力で撃つなよ」
そして、勇者タームがペルセウス流星剣を放つ。熾天使フジーコが与えた剣聖の加護。それは、黒子天使が憑依し、勝手に体を操るだけに過ぎない。だから、どんなに技能がない者でも構わないが、光速で放たれる無数の斬撃に、タームの筋肉は断裂し骨が砕ける。
強制的に動かされる体であっても、光速の動きや衝撃に耐えれる訳がない。だから、勇者の体は黒子天使によって秘密裏に改造される。
それだけじゃなく、改造された体には脳内麻薬が多量に分泌し、痛覚は麻痺する。その感覚は中毒症状を引き起こし、再び逆境を追い求めて、ダンジョンの最奥を目指す。
勇者のボロボロとなる体。しかし、傷付けば傷付く程に、ダンジョンは生命力を吸収し、より大きく成長する。
勇者の適正とは、生命力の強さ。それだけが唯一求められる資質であり、それ以外は必要としない。全てが黒子天使達によって操られるのだから……。
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