第6話 驚愕の結末
今夜も、
黄身は金色、白身は銀色を表し、
そして景五は、真琴が教える通り、茹でた卵の黄身と白身を分けてそれぞれ裏ごしし、お砂糖とお塩、片栗粉を混ぜ合わせて、白身を下にした層を型の中に作る。
それを前もって準備をしていた蒸し器に入れた。あとは卵が固まるのを待つだけ。セットしたタイマーが目安時間だ。
「巧く、できるやろか」
湯気を上げる蒸し器を見て、景五がぽつりと呟く。
「大丈夫やで。景五ちゃんとできとったもん」
真琴が言うと、景五をじっと見ていた
「けいごおにいちゃんすごい! おいしい? むつきもたべれる?」
「……うん」
景五が照れた様に、六槻から視線を反らせた。それでも六槻は「やったー!」と両手を上げてはしゃいだ。
「あー、景五ええなぁ〜。六槻、四音お兄ちゃんのことも褒めてや〜」
すぐ近くにいた四音がおどけた様にそんなことを言うと、六槻は「えー?」と少しばかり不満げな声を出す。
「しおんおにいちゃんもすごいけど、いまはけいごおにいちゃんやねん」
「えー悲しいなぁ〜」
四音はそんなことを言うが、全然ショックを受けている風では無い。とにかく最近の六槻は景五を優先していた。景五も六槻に懐かれてまんざらでは無さそうだ。そんな光景を見られるのも、あと少し。
そう、あとたった2週間。猶予の折り返しに来ていた。それを思うと、また真琴の涙腺が緩みそうになってしまう。だがもう真琴は泣かないと決めた。
別れの時こそ我慢できる自信は無いが、それでもせめてそれまでは。誰の負担にもならない様に。いちばん悲しい思いをするのは、きっと景五なのだから。
卵を蒸している間に真琴は洗い物に取り掛かる。景五は四音に合流してもらい、あやかしのお相手だ。あまり口を開かない景五だが、あやかしたちは景五に話し掛けるだけでも楽しいらしい。
景五が里に帰っても、子どもたちがひとりでもいる限りこの時間は続くだろう。それはいつまでのことなのか。
子どもたちの背景を思うと、きっとそれは遠いことでは無いのだろう。夢を叶えて独立するのなら
その時だった。「まこ庵」の自動ドアが開き、
「真琴さまっ、
突然のことに真琴も子どもたちも、あやかしたちも驚いて動きを止める。全員の注目を浴びながら鞠人さんはぜいはぁと息を整え、厨房でぽかんとしている景五に叫ぶ様に言った。
「景五、
すると店内がざわつき始める。真琴も「え?」と目を見開いた。
「お父ちゃん呼んでくる!」
三鶴が素早く立ち上がり、ばたばたと足音を立てて上へと駆け上がって行った。真琴は慌てて手を洗い、景五を促してフロアに出る。
「鞠人さん、どういうことですか?」
真琴が聞くと、鞠人さんはようやく呼吸を落ち着けて、背筋を伸ばした。
「長の
「そうなん!?」
「そうなのですか?」
三鶴に呼ばれた雅玖が慌てて降りて来た。三鶴に話を聞いたのか、雅玖も驚いて目を丸くしていた。
「はい。妖力とあびこ観音さまのご加護で治療を続けていたのですが、昨日、病巣が小さくなり、長の意識も戻ったのです。今日も病巣はさらに小さくなって……。なので、このまま治療を続けたら、完治の可能性もあるのです」
「すると、景五を戻すという話は」
「はい。長が元気になれば、ひとまずは無くなります」
その知らせにあやかしたちが「わぁっ!」と沸いた。特に猫又のあやかしたちの喜び様は凄かった。「まこ庵」に来ているから皆いつも通りに過ごしてくれていたが、心配で無かったわけが無い。
そして、真琴も。どうしても景五のことばかりを考えてしまっていたが、猫又の純血を守るという重責を
その長が永らえ、景五もまだここにいることができる。それは何と素晴らしいことか。まさに奇跡では無いだろうか。
「良かったぁ……」
真琴は全身の力が抜けてしまい、どうにか手近にあった椅子に腰を降ろした。そんな真琴の肩を雅玖が支える。
「真琴さまにも雅玖さまにも、ご心配をお掛けしました。ところでひとつ不思議なことがあるんですが、実は我々の妖力とあびこ観音さまのご加護の他にもうひとつ、2週間ほど前から強大な妖力が長に作用していたんです。まるで、人間さまとの混血のあやかしの妖力なまでに大きな力が」
まさしく人間との混血である雅玖は首を捻る。
「私には心当たりはありませんが」
「そう、ですよね」
するといつの間にか、六槻が真琴の足元に寄って来ていた。
「ねぇ、ママ、おとうちゃん、けいごおにいちゃん、かえらんでええようになったん?」
無邪気に聞いて来て、その
「そうですよ。景五お兄ちゃんは、まだこの家にいることになりましたよ」
「やったぁ! あのね、むつきね、けいごおにいちゃんがずっとこのいえにいられるようにって、ずーっとおねがいしててん!」
「お願い?」
「そう。ねこまたのえらいひとのびょうきがなおりますようにって。だって、えらいひとがたすかったら、けいごおにいちゃんかえらんでええんやろ?」
六槻のせりふに真琴と雅玖、そして雅玖と鞠人が目を見合わせる。
「まさか、六槻の?」
真琴が言うと、鞠人さんは
「六槻さまはまだお小さいから、まさかやとは思ったんですが」
「もしかしたら、六槻は私などには及ばない妖力を秘めているのかも知れませんね」
当の六槻は雅玖の腕の中で得意げににんまりとしている。自分がやったことの大きさを分かっているのかいないのか。そう、まだ小さいから、六槻は無意識だったのだろう。知らず識らずのうちに妖力を送ってしまっていたのだ。しかも次元すら異なる猫又の里に向けて。
もしかしたら、ずっと景五の側にいたがったのは、そのためだったのかも知れない。もちろんそうとは知らぬままで。
「六槻、凄いなぁ。絶対に六槻のお願いが効いたんやわ。でもまだ完全に治ってへんねんて。せやからまた一緒にお願いしよな」
真琴が微笑んで六槻の頭を撫でると、六槻は「うん!」と満面の笑顔で頷いた。
そして子どもたちは景五を囲む様に抱き合って歓喜し、壱斗などは「うおー!」と雄叫びを上げていた。
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