第5話 死体を捨てるなら海か山か
俺に罪を擦り付けた犯人が警察を呼んだかもしれない。とすると、まず俺は、死体をここから移動させないといけない。
俺は死体をスーツケースに収納して部屋を出た。
俺の部屋は木造二階建てアパートの二階。音をたてないようにスーツケースを持ちあげて外階段を下る。それにしても重い・・・
女性に対して失礼なのかもしれないが、重いものは重い。奈那の体重を知らないが、50kgくらいはあるだろうか?
俺がスポーツジムで使っているダンベルは10kg。腕だけで持ち上げられるのは20~30kgが限界だ。長時間スーツケースを持って移動するのは不可能だ。
息を切らして外階段を降りた後、俺は駐車場に停めてある車に乗った。スーツケースは助手席に乗せた。久しぶりの女性とのドライブだ。死体だけどな・・・
俺は近くのコンビニに車を停めて、どこに捨てに行くかを考えることにした。俺は田畑部長から『動く前に考えろ!』と叩き込まれている。それに、闇雲に死体とドライブしても捨てる場所は見つからない。
まず、俺の考える死体の処分方法は二択だ。
一つは山に埋めること。もう一つは海に沈めること。
それぞれのメリットとデメリットを考えてみよう。
山にスーツケースを埋めるには道具が必要だ。特にこのスーツケースは特大サイズ。この大きさのスーツケースが入る穴を掘るには、大きなシャベルが必要になる。
この時間はホームセンターが閉まっているから購入できない。どこかで盗むか?
捕まれば窃盗罪がプラスされる。窃盗罪は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金、大した罪ではない。ただ、問題がある。雪深い地方ならともかく雪が降らない〇〇県には、シャベルを持っている家庭はほとんどない。〇〇県ではシャベルはレアキャラなのだ。
〇〇県でシャベルがあるのは農家くらいだろう。畑やビニールハウスに忍び込んで盗まないといけない。最近は収穫前の果物を狙った泥棒が増えているから、見回りをする農家が増えている。それに、監視カメラを設置している農家も増えている。
誰かに見つかるリスクがあるな・・・
山に埋める案は一旦ペンディングにして、俺はもう一つの候補について考えることにした。
海に沈めるには、スーツケースが浮いてこないことが最重要。スーツケースに石や金属を大量に入れて重くし、さらにロックが開かないように粘着テープやロープで縛る必要がある。こうすればスーツケースは浮いてこない。
ただ、海に沈める案にも問題はある。捨てる場所が難しいことだ。
砂浜で捨てる場合はかなり深いところまでスーツケースを持っていかないといけない。流れの速いところに捨てると岸に流れ着くリスクがある。
――流れが速くなくて、深い海か・・・
俺は死体を沈める海をイメージする。
いや、池か沼の方がいい。海なら海流を考慮しないといけないが、池や沼は流れが無い。
近くに池があったから、そこに捨てに行くか?
こうして、俺は近くの池に向かうことにした。
***
俺は池の近くの駐車場に車を停めて外に出た。
この池は1周1.5キロメートル、ジョギングコースとして有名だ。東京に住んでいる人なら井の頭公園をイメージしてもらえばいいかもしれない。朝や昼間はジョギングしている人が多いが、夜間は人がほとんどいない。
車を降りた俺は、まず、手ぶらでスーツケースを捨てる場所までの道を偵察することにした。スーツケースを引っ張って歩くと“ゴゴゴゴゴゴゴー”と凄い音がする。静かな場所だと余計に目立つのだ。
“ゴゴゴゴゴゴゴー”と凄い音がしても誰にも気づかれずにスーツケースを捨てられるかを確かめないといけない。
池の周りは歩道があり、歩道に沿って街灯が設置されていた。想像していたよりも池の周りは明るい。すれ違ったら顔を判別できる。さらに、人通りは少ないものの、全くないわけではない。
池の周りを犬と散歩している男性、仕事帰りにこの道を通っている男性、ジョギングしている男性がいる。
――ちょっと人通りが多いな・・・
池に沿って俺は歩いて行く。
ベンチにカップルらしい男女が並んで座っていた。楽しそうに何か話しをしている。俺はその男女(カップル)に意識されないように前を通り過ぎる。まるで空気のように。
しばらく歩いて振り返ってみた。ベンチの二人は唇を重ねている。男は女の背中に手を回して・・・このまま本番に突入しそうな雰囲気。
だめだ、やめてくれ! 俺がそっちに戻れねーじゃねーか!
しかたなく俺は池の周りを進み続けた。死体を捨てる場所を探して・・・
俺は池を一周して、スーツケースを捨てる候補(場所)を見つけた。ただ、人通りがあるから、誰にも気付かれずにその場所までスーツケースを運ぶことは無理そうだ。
スーツケースのキャスターから発せられる“ゴゴゴゴゴゴゴー”を消すためには、スーツケース持ってそこまで行かないといけない。
スーツケースは死体に加えて錘(おもり)を入れているから、とにかく重い。キャスターを使わずに持っていくなんて不可能だ。
――捨てる場所はここじゃない・・・
俺は諦めて別の場所を探すことにした。
***
俺は車に戻った。もっと人が少ない貯水池やダムの方がいいかもしれない。俺はカーナビを使って貯水池に向かった。
貯水池に到着した俺は茫然とした。池の周りには柵が張り巡らされおり、入り口は施錠されている。さらに貯水池の周りには監視カメラが設置されている。この中に死体を捨てるのは無理だ。
その後も俺はいくつかの貯水池を訪問したのだが、状況は同じだった。
――死体、捨てれなかった・・・
俺は失意の中アパートに戻った。
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