この想いを恋と呼ぶなら

香り箱

第1話 幼馴染の話

 友達が貸してくれた本に、幼馴染同士の恋の物語があった。

 お互い想い合っているのに、あと一歩を踏み出せずにいるという話だ。

 その後、男の子は、後から知り合った女の子に恋をする。そして、幼馴染の女の子は失恋してしまうのだ。

 なぜ、想いを伝えなかったのかと、伝える時間も機会も十分にあったではないかと、私は不思議に思うのだった。

 そういうストーリーなのだから仕方がないと言われれば、そういうものかと納得するしかないが。

 だが、現実は違うのだ。他の子に取られては意味が無いのだ。

 伝わらない想いは、伝わらなかった想いは、何の意味も価値も無い。

 だから、私は私の想いを彼に伝える。

 ――― そして臆病者の私は外堀を埋める。


 ――――――――――――


 隣家とは、私が生まれる前からお付き合いがあるそうだ。

 理由は、ありふれたよくある話で、建売住宅を購入し、引越してきたのが同時期だったからだ。

 そして、ほぼ同時期に子供を授かり…とくれば、隣家とはもう家族ぐるみのお付き合いとなり、現在に至る。のだが、幼稚園の年長の頃、隣家の奥さん、つまり彼のお母さんが病気で亡くなった。その時の彼は、どうしようもなく落ち込み、寂しがり、私や私の両親が、毎日付きっきりで、彼を支えた。まぁ彼の家庭環境からすれば、そうなるのも致し方ないのだが、小学校に上がる頃には、彼はなんとか悲しみを乗り越えていった。

 私の記憶にある暗くなるまで私を連れ回し遊んでいた明るく元気な彼はもういない。

 でも、私がずっと想いを寄せる彼は、今、昔と変わらず優しい目をしている。

 もうその目には、深い悲しみを湛えていない。


 この話をすると、それが理由で好きになったと勘違いされるのだが、それよりも前から、私は彼に好意を抱いていたらしい。多分、好きになった理由はもっと単純でそれこそ幼稚な理由だったと思う。今となっては思い出せはしないけれど。

 母が言うには、大きくなったら結婚する、彼のお嫁さんになると言って彼と結婚の約束をし、何故か誓いのキスまで済ませたらしい…

 その時の様子を思い出して、母は大笑いしていた。


 既に彼とのファーストキスを済ませていたという衝撃的な事実を初めて聞いた時、死ぬまで胸の内に秘めておこうと思った。

 だって、その事は彼も覚えていないだろう。

 そして、私の母が告げるとも思わない。

 何より、その事実を知っていたであろう彼の母はもうこの世にいないのだから。


 話が逸れてしまったが、小学6年の時、彼の父親が再婚し、義理の母、姉妹と5人家族になった。

 それでも、私たちは以前と変わらず家族ぐるみの付き合いをしている。

 また、彼の義姉妹とは、まるで本当の姉妹のような付き合いをさせてもらっている。


 彼とは、小学校、中学校、そして、高校も同じ学校に通っている。

そして、幼稚園から続く彼と同じクラスになるという連続記録は、今なお更新中である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る