キャッシュレスの迷子、アナログの絆

O.K

第1話:アナログとの出会い

昼下がりの陽光が町を包み込む中、完全キャッシュレス生活を送る男、悠斗(ゆうと)は、旅行先である町に足を踏み入れた。彼のスマートフォンは決済アプリだらけで、デジタルな未来に囲まれた日常を送ってきたが、今回の町は異なっていた。案内板には、「この町では現金のみ利用可能です」との注意書きが目に飛び込んできた。


悠斗は驚きとともに、スマートフォンを手に取り、何度も画面をタップしてみたが、どんなアプリも機能せず、まるで町自体がデジタルの波に包まれているかのようだった。彼は不安げな表情で周囲を見渡し、人通りの多い商店街へと足を進めた。


「すみません、この辺りで使えるキャッシュレスのお店ってありますか?」と尋ねると、通りがかった地元の住民たちは首を傾げ、不審そうな表情で答える。悠斗は自分の状況を理解できないまま、ますます混乱してしまった。


途方に暮れながら歩いていると、目の前には昔ながらの小さな喫茶店が現れた。悠斗は最後の望みを託し、その扉を開けた。中にはレトロな雰囲気漂うカウンターと、笑顔で接客する老夫婦がいた。


「いらっしゃいませ!お一人ですか?」と夫婦揃って歓迎の言葉をかけられ、悠斗は安心した。しかし、注文を受け付けている最中、悠斗の支払い方法が現金でないことがばれてしまった。


「あらら、キャッシュレスなんですね。ここは現金しか受け付けていないんですよ。」


悠斗は舌打ちをすることもなく、謝罪の言葉を述べながらも、スマートフォンをしゃがみ込んで見つめた。老夫婦は微笑みながら、ふたりで相談するような仕草を見せ、そして気まずい沈黙が店内に広がった。


すると、老婦人がほっそりとした手で悠斗の手を取り、「仕方ないわね、少し待っててね」と言って厨房に消えていった。その様子を見て、悠斗は驚きとともに感謝の気持ちがこみ上げてきた。


しばらくして、老婦人が手にしたのは手書きの領収書と共に差し出された現金だった。「これでお支払いしてね。無理に持っていかなくてもいいわよ。」


悠斗は驚きと感激の入り混じった表情で現金を受け取り、「本当にありがとうございます。助かりました」と頭を下げた。彼はその後も町の人々の温かい心遣いに触れながら、現金の取り扱いに慣れない自分を振り返りつつ、新たな体験とともに旅を続けることとなった。

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