サツマイモのぬくもり:キャッシュレスの先に広がる地域の絆

O.K

第1話:キャッシュレスなぬくもり

昭和の香り漂う小さな商店街にある喫茶店「レトロカフェ」は、最先端の技術に取り組む一方で、キャッシュレス決済のみを受け付けるという新しい試みを始めた。ある日、そのカフェを初めて訪れたのは、気丈でちょっぴり時代遅れの雰囲気を醸し出すおじいちゃん、佐藤善三さんだった。


佐藤さんは、町の人たちからは「昔馴染みのおっちゃん」と呼ばれていた。いつも愛らしい笑顔を絶やさず、地域の活気と共に歩んできた彼は、今日も朝から元気に喫茶店へと足を運んでいた。しかし、彼が気がついたのは、カフェの入り口に掲げられた看板に書かれた「キャッシュレスオンリー」の文字だった。


「まあ、時代の流れなんだろうな」と佐藤さんは思いながら、自分の財布を開けた。しかし、彼の手に握られていたのは、古びた札束と硬貨だけだった。キャッシュレス決済の端末が目の前に迫る中、佐藤さんは唖然と立ち尽くした。


「おい、善三さん!どうしたんだい?」


喫茶店の店主、田中さんが声をかけてきた。佐藤さんは恥ずかしさを押し殺しながら、「お金がないみたいで…」と小声で言った。


田中さんはにっこり笑って、「大丈夫、大丈夫。ちょっと待っててくれ」と言って、キッチンに消えていった。しばらくすると、彼が手に持って戻ってきたのは、昔ながらのレジ袋に入ったサツマイモだった。


「これ、古くなった分のサービスだよ。気にしないでくれ。」


佐藤さんは感激の表情でサツマイモを受け取り、「ありがとう、ありがとう」と何度も頭を下げた。その後、佐藤さんは喫茶店の奥の席に座り、ほっこりとした雰囲気の中で温かいコーヒーを楽しんだ。


町の人たちにとって、キャッシュレスが当たり前になっていく中で、佐藤さんのようなおじいちゃんもまた、時代の変化に戸惑いながらも、地域の人々に愛され続ける存在だった。そして、「レトロカフェ」はその日から、キャッシュレスだけでなく、心の温かさも大切にする場所として、町の人たちに親しまれるようになった。

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