第26話
摩訶不思議 二十六章
一二三 一
大阪の有名高級ホテルで隆が
体験した心霊現象をお話します。
(一)
日本の三大ホテルの一つに数えられる有名なホテルチェーン。
今回の話はその中のホテルで起きた事です。
前出のX先生との仕事の流れで、そのホテルのラウンジでちょっとした宴会をすることになった隆とKさん。
その席にホテルから支配人も参加されていたそうです。
Kさんと隆は普段からチャンスがあればどこのホテルにも有ると言われる「開かずの間」について支配人に聞きたいと思っていた。
まさに千載一隅のチャンスが訪れた。
「支配人。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが・・・」隆が切り出した。
「はい。なんでしょう?」と支配人。
「聞きにくい事なのですが、どうしてもお尋ねしたくてチャンスを待っていました。」
「ほう・・・何なりと。X先生の顔もありますので応えられる限り答えます。」
「支配人。よくホテルには開かずの間が有るという話がまことしやかに伝わっていて、面白おかしく尾ひれがついて広がっているようですが、実際のところはどうなんですか?」
「ああ、その手の話ですか・・・どうお答えすれば良いのか・・・難しいですね」
「あると言えば有るし、無いと言えば無い。
そんな感じになりますが、これでは答えになりませんね。」
「皆さんがよく耳にされる話は結婚式の前日や当日に花嫁が自殺してその部屋に現れるというような話でしょ?」
「当ホテルではそれは有りません。」
「しかし、表ざたにならずに人が亡くなるって事は年に一人や二人ではありません。」
「急な賓客に備えて私共のホテルでは幾つか部屋を開けて有りますが、これはお尋ねのような開かずの間では有りません。」
「先程も申し上げた通り、当ホテルに開かずの間と称されるものはありません。」
「ただ、原因不明ですがサービスコールが点く部屋はあります。」
「サービスコールですか・・・」
「何方も宿泊されていないのにサービスコールのランプが点灯する部屋が有ります。」
「電気系統も調べましたが異常は無く、誰かのイタズラかとも思い大体午前1時頃に点くので現場を押さえようとスタッフを配置してサービスコールが点いて直ぐにその部屋に入らせましたが誰も居ませんでした。」
「それ以来その部屋はなるべくお客様をお泊めしないようにはしています。ただ幽霊騒ぎとかにはなっていません。」
「いろいろなお客様がご宿泊になられます。不慮の事故や急病で亡くなられる方もいらっしゃいます。そんな方々の思いが残ったとしても不思議ではありませんね。」
「そうですか。ありがとうございました。」
「隆さん、やっぱりあるんやな。今の支配人の話は自分の口からは言いにくいだけやろ。」
「サービスコールが誰も泊ってないのに点くって十分心霊現象やん。」
「まあ、そういうことやな。」
「ちょっとお手洗い行ってくるわ」と隆は席を離れた。
ラウンジを離れ一階の奥にあるトイレに向かう隆。
「あれっ?ザワザワする・・・」
(二)
不意に隆をザワザワ感が襲った。
「何かな。何かおきるのかな」と考えながらトイレにむかった。
トイレにはいり小用を足す。
その時背後に強いザワザワ感を感じた。
首を少し後ろに回しザワザワを感じる方向に目を向けた。
トイレの入り口辺りに黒い影が見える。
ザワザワ感が一層強くなる。
黒い影が姿を現した。
ガチャ、ガチャと音を立てながら入り口方向からやって来て隆の背後を通りながら個室の並ぶ方向へそれは進んで行く。
個室の壁をすり抜けて何処ともなく消えて行った。隆のザワザワ感も消えていた。
「なんでこんなところにあんな者がいるのだろうか」と隆は思ったそうで、宴席に戻るとX先生に今見た事を話してみた。
すると先生は、「支配人にこちらに来るように伝えて下さい。」と言われ、隆に意味ありげな笑顔を向けて、「Kさんも呼びますか?」と言われたそうで
「怖がるだけなので・・・」と隆。
「やめときますか」と先生。
そこへ支配人が来られた。
「先生、何か御用ですか?」
「あのね、今隆さんが一階奥のトイレで見たそうです。彼は大丈夫ですけどね。」
「そうですか。ご覧になられましたか。」
「先生から隆さんの事はよくお聞きしているので、先程の開かずの間の話の時にお伝えしてもよかったんですが、Kさんもいらっしゃったので止めておきました。」
「隆さんがご覧になったものこそ、このホテルで時折目撃される心霊現象です。」
「決まって一階奥のトイレの入り口付近から中を横切って個室の方向へ消えて行きます。」
「私の時も背後を通って行きました。寄ってくると嫌でしたが、真っ直ぐ個室の方へ行って消えて行きました。」
「こんなに綺麗で、立派なホテルに何であんな鎧武者がでるのですか?」
「そこなんですよ。我々も見当がつかずに困っていて、先生に相談したら、通り過ぎるだけで悪さはしないから何もしなくていいと言われたのでそのままにしています。」
「隆さん、あれは大阪夏の陣の時にこのあたりで戦死したお侍さんです。」
「そういう事でしたか。」
「私も以前大山崎あたりの崖で鎧武者を見たことがありますよ。」
「無念なんでしょうな・・・」
「でもね隆さん、残念無念、思い残したことがあるなんて皆有りますよ。思いが強いと誰でも現世に残るという事では無いのでね。」
「そうですね。」
「kさんが見なければよいですけどね」
「あの人がもし見たら大騒ぎになるんでしょうね。」
「そっちの方が怖いですね。」
先生、支配人、隆は顔を見合わせて笑った。
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