そのころの王妃

「王妃様……大丈夫でしょうか…」


「えぇ…あれほどの空腹を感じたのは初めてです」


あれから4日間、毎日食事を食べ続けた王妃。空腹が収まると今まで感じなかった満腹感を感じていた。しかし、この場にいた王妃以外の人々はそれ以上に不可解な点を考えていた。そう、あれだけ食べていたにもかかわらず王妃の体型が変化していないかったのだ


この世界でも食べすぎると太るというのは分かっていた。大きな魔物を狩った後のパーティ等、この世界の人間も食べすぎることはある。文明や知識という点ではかなり遅れてるこの世界においても食べたら太るというのは常識だ。だが、この文明レベルの低さというのもまた事実。なぜなら、4日間文字通り食べ続けた王妃が便や尿の排せつを一切行っていないこと、睡眠を一切取っていないにも関わらずこうして会話が出来ていることに疑問を持つ人はいなかったのだ


「食事の合間にポーションを飲んでいただきましたが、それでも一切改善がみられることは無く、どうして落ち着いたのでしょうか」


「それは分かりません」


まがりなりにも魔物という危機が身近なこの世界において人間は臆病であった。この場においてポーションを与えたことで完治したと楽観的に考えている人はいない。そしてこれが王妃だけにとどまるのか、それとも広がっていくのか、それすらも分からない彼らに異様な雰囲気が漂っていた


「……私と同じ症状が出る人がこれからも出てくるかもしれません」


実際のところ、今回の王妃の食欲は、ギフトによって体内から逃げ出した息子の影響だったりする。マイルーム内はデフォルメされた姿の2頭身の姿となるが、まだ胎児であった彼の身体にそのような余剰は存在しなかった。そのためギフトで移動する際、王妃の栄養や魔力といったものをごっそり奪ったうえで移動していた。発覚当初はショックで寝込んでいた。いや、寝込んでいたため理性が薄く、本能に突き動かされ食事を摂っていた。食事をとり始めた当初、王妃に意識は一切なかった。ただ、本能に突き動かされるままに食料を詰め込んだのだ。そうして栄養を得ている過程で意識を取り戻したが、すると今度は抗えない空腹という形で意識を奪っていた

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