第53話 邂逅、エンドレス・ウォーカー

 エンドレス・ウォーカー。


 直接会ったことはなかったが、資料などでさんざん見覚えのある顔と名前だった。

 それもそのはず。


 この男こそが、サファイアをはじめとする小さな子供たちに、非道な人体実験を行っていた悪の科学者なのだから。


「俺たちイージスがずっと追っていた張本人が、わざわざ会いに来ただと? 自首扱いにでもして欲しいのか? 残念ながらそれは無理な相談だな」


「ははは、自首だって? まさかまさか。そんなことをする理由は、私にはこれっぽっちもありはしないよ」


「じゃあなんだ? 見たところ一人のようだが、まさか俺とサシでやり合おうってのか? 俺も舐められたもんだな。お前の手下どもがどうなったか、知らないわけじゃないだろう?」


 彼らは今頃イージスの収容施設に連れていかれ、厳しい尋問を受けていることだろう。


「手下? はて……なんのことだろうか?」


 しかしエンドレス・ウォーカーはなぜかそこで、不思議そうな顔で小首をかしげた。


「とぼけるな。海で襲ってきた3人組のことに決まってるだろ」

「ああ、彼らのことを言っていたのか」


「まるで他人事みたいに言うもんだな」


 俺は呆れたような言ったのだが、返ってきたのは思いもよらない言葉だった。


「実際、彼らは他人だからね」

「なんだと……?」


「彼らは金で雇っただけの有象無象さ。襲撃を撃退したと君たちに思わせ、油断をさせるためだけの、いわば捨て駒だ」


「な……っ」


「失敗した時点で私の目的は達せられた。その後に彼らがどうなろうと、私には何の興味もない。それ以前に、私は彼らの名前も素性も知らないしね」


「どうしよういもないほどに、クズの極みだな、お前は」


「おやおや、君は道端の石ころを踏んだ時に、名前を呼びながら可哀想だと泣いてあげるのかい?」


「お前にとって、あいつらは道端の石ころってか」

「ああ、そうだが?」


「OK。お前がどういう人間なのかは、改めて理解した。一切の手加減はしない。2度と舐めたことが言えないように、きっちりお灸をすえてやるから覚悟しておけ」


 俺は殺意にも近い敵意を込めて、エンドレス・ウォーカーを睨みつけた。


 しかしエンドレス・ウォーカーは、飄々ひょうひょうとした態度のまま言葉を続けていく。


「少し話が逸れてしまったね。つまりだ。私は私の可愛いあの子を、君たちから返してもらいに来たのさ。実験体334号を今日まで保護してくれて、どうもありがとう」


 笑みを深めながら舐めたことを言い放ち続けるエンドレス・ウォーカーに、俺はついに怒りを爆発させた。


「なにが実験体だ! サファイアを! 何の罪もない子供を何十人も犠牲にして、よくそんなことが言えたな! お前には人の心ってもんがないのかよ!」


 だがそれでも。


「私の世界の真理を探究している。その前では、人の心なぞ大した価値はないよ」


 エンドレス・ウォーカーはまるで子供に諭すように、自分の理想を俺に語り聞かせてくる。


「世界の真理だって? サファイアの持つ天使炉のことか?」


「なるほど、その反応を見る限り、君たちはどうやら天使炉──エンジェル・リアクターの価値を何もわかっていないようだ。あれは世界のあり方すら変える存在だというのに」


「世界の在り方を変える?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る