第41話 あのね帳と後日談(2)

~~あのね帳(サファイア)~~


おじじ、あのね。


きょうは、ママが、むらさめと、ちゅー、してたの!


サファイア、こっそり、みちゃったんだ!


おそとで、おはなみで、チューして、あーん、してたの!


むらさめの、ポッキーを、くわえて、ママは、よろこんでたよ!


あんあんあーんあーん、って、たのしんだよ。


でもね。


ちゅーを、みたのは、だまってて、おいて、あげたの。


だって、サファイアは、おとなの、おんな、だから!


ねたふりを、して、あげたんだよ!


えらいでしょ?



~~後日~~


 なぜか俺はダイゴス長官に、朝イチで長官室に呼び出されていた。


「強襲攻撃部隊アサルト・ストライカーズ隊長カケル・ムラサメ、出頭しました」


「オペレーション・エンジェルで多忙の中、わざわざ来てもらってすまんね」


「いえ、お気遣いなく。それで急なご用件とはなんでしょうか?」


「今日呼んだのは他でもない。サファイアの情操教育に関して少し話したいことがあってね」


「サファイアの情操教育について、ですか? 自分ではそれなりに気をつかっているつもりですが、何か問題でもありましたでしょうか?」


 ご飯を食べることが他者の命を貰うことだと教えたり、俺なりにサファイアの心の育成には気を使っているつもりだ。


 というか、それはわざわざ呼びだしてまでする話なのだろうか?


 ま、あれか。

 孫可愛さにいろいろと首を突っ込みたいのだろうと、俺はダイゴス長官の心のうちを推察した。

 ダイゴス長官はゴツイ見た目のせいで、サファイアから怖がられているからな。


「いやなに、皆まで言わずともよいのだ。若い2人が、仮にとはいえ夫婦になれば、当然そういった行為に及ぶことは、私も理解できる」


「まぁ、そうですかね」


 いわゆる一般論、というやつだろうか?


 だがどうしてこんな話をされるのかが、さっぱり分からない。

 ダイゴス長官は、サファイアの情操教育について、俺に話をしたかったんじゃないのか?


「ゆえにあれやこれやにあまり口出しするのも、それこそ余計なお節介というものだろう。だからこれは年寄りのたわごとだと思って、軽く聞き流してほしい」


「分かりました」


 年寄り――つまり、お爺ちゃん目線での言葉という事だな。

 どうやら俺の推察は当たっていたようだ。


「若い2人が『そういうこと』をするのを止めはしない。むしろ好ましいことだろう。だが小さな子供には見せない配慮が必要だろうと、私は思うのだ。なにより外でというのはいかん」


「はい」


 これはあれか。

 ミリアリアとポッキーゲームをしていたのをサファイアに見られかけたことを、言っているのか。


「それが大人の節度であり、子供への情操教育というものだと私は思う。今日言いたかったのはそれだけだ」


「金言、痛み入ります」


 ミリアリアが報告したのかな?

 オペレーション・エンジェルの報告は俺に一任されているが、ミリアリアとダイゴス長官は実の親子なので、もちろんプライベートなやりとりがある。


 上司でもあり父親でもあるダイゴス長官に聞かれたら、当然ミリアリアは素直に答えるだろう。


 だが仮に見られたとしても、ポッキーゲームくらいはギリギリ許容範囲じゃないか?

 イチイチ呼び出して話をするようなことでは、ないと思うが……。


 やや腑に落ちなかったものの、コンコンとノックの音がしてダイゴス長官の秘書が入ってきて、疑問を尋ねることはできなかった。


「ま、『年寄りのたわごとだと思って、軽く聞き流してほしい』って、ダイゴス長官が言ってたんだしな。そう深く考える必要もないだろう」


 俺は頭を切り替えて長官室を退出すると、再びオペレーション・エンジェルへと戻ったのだった。

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