第39話 OK。このゲームの本質は、完全に理解した。
つまりはこういうことだ。
ポッキーを折らなければキスをしてしまう。
恋人や夫婦ならまだしも、そうでないのにキスをするのは道徳的にも倫理的にもまずい。
ダイゴス長官も、可愛い娘が弄ばれたと知ったら怒り狂うだろう。
俺としても、俺を拾い上げてくれた大恩を、仇で返すわけにはいかない。
しかしアレコレまずいからと先にポッキーを折ってしまうと、負けになってしまう。
ここで駆け引きが生まれるのだ。
つまりポッキーゲームとは、駆け引きを伴った心理戦の一環であり、心理戦で負けて先にチキった方が負けというゲームなわけだ。
OK。
このゲームの本質は、完全に理解した。
ミリアリアめ、なかなか面白いゲームを仕掛けてくるじゃないか。
そんな風に俺がポッキーゲームの趣旨や意図を深く考察してる間にも、ミリアリアはカリカリとポッキーを食べ進めてきており、そろそろ唇が触れ合いそうになってしまっていた。
どうする?
もちろん、本当の夫婦でないのだからポッキーは折らなくてはならない。
だからと言って簡単に折ってしまったら、ゲームとしての楽しさを損なってしまう。
それは楽しく遊ぼうと提案してくれたミリアリアに対して、あまりに失礼極まりない。
本気で遊ぶからこそ、遊びは楽しいのだ。
だから俺は妥協はしない!
本気でポッキーゲームという心理戦を戦うんだ!
そうと決まれば、まずはこういう時の定石だ。
相手の立場──ミリアリアの気持ちになるんだ。
俺は戦闘時のような思考加速を開始した。
そもそもミリアリアは、恋人ではない俺とはキスなんてしたくないだろう。(0.1秒)
よってどこかで必ずポッキーを折るはず。(0.1秒)
ミリアリアは女の子だから、男の俺よりもキスへのハードルは高いだろうからな。(0.1秒)
基本は待ちに徹するべきだ。(0.05秒)
しかし、だというにもかかわらず、まったくポッキーを折る素振りを俺に見せないあたり、ミリアリアはこのポッキーゲームという遊びに、かなり精通しているに違いない。(0.2秒)
ポーカーフェイスならぬ、ポッキーフェイスってか。(0.1秒)
初体験の俺とは、積み重ねてきた場数が違うのがよく分かるよ。(0.1秒)
やるな。(0.01秒)
さすがはミリアリアだ。(0.05秒)
何をやらせても頼りになる副官だよ。(0.05秒)
だが、マジでどうする?(0.05秒)
これだと本当にキスしてしまいそうなんだが?(0.05秒)
俺も男なので、ミリアリアみたいな可愛い女の子とキスしてみたいという低俗でスケベで品性下劣な欲望が、全くないと言えば嘘になる。(0.1秒)
それは異性を愛し子孫を残すという人間の本能だから、ゼロにはできない。(0.1秒)
だがそれを理性で抑え込むのが、大人の男というものだ。(0.1秒)
それはそれとして。(0.05秒)
もうミリアリアはゴール寸前だった。(0.1秒)
うーむ、これ以上はさすがにまずいか?(0.1秒)
いや、俺にそう思わせることがミリアリアの作戦なのは間違いない。(0.1秒)
簡単に引いてはいけない。(0.1秒)
まだ粘れる──いやしかし──。(0.1秒)
まだ粘れる──いやしかし──。(0.1秒)
まだ粘れる──いやしかし──。(0.1秒)
俺が初めてのポッキーゲーム(という名の心理ゲーム)に、思考加速して挑んでいると、
「むにゃ……。あれ? むらさめ、ママとなに、してるの?」
もう唇が触れるか触れないか、最後の最後の駆け引きってところで、下の方からサファイアの声が聞こえてきた。
俺とミリアリアがポッキーゲームを遊んでいたせいで、どうやらサファイアを起こしてしまったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます