第14話「ぱじゃまは、これ! わんわん!」
「ぱじゃまは、これ! わんわん!」
クローゼットの下段に置かれたカラーボックスから、犬の着ぐるみのようなパジャマを取り出したサファイアが、嬉しそうに両手を左右に広げながら俺に見せてくる。
「へぇ、最近はこんな可愛いパジャマがあるんだな。サファイアが着たらよく似合いそうだ」
想像するだけでほっこりするよ。
「わん!」
……多分だけど、『はい』って言ったのかな?
『ありがと!』『もっとほめて!』かもしれない。
なんにせよ、可愛らしいことこの上ない。
「それで、ええっと? 俺の着替えはどこだろう……?」
そして着替えがどこにあるのか分かっていない俺に、
「はい、どうぞ。これです」
ミリアリアがさっと着替え一式を取り出してくれる。
「サンキュー。まだどこに何があるか分かっていなくてさ。助かるよ」
「そんな、これくらい妻として当然ですから」
ミリアリアはニコニコしながら言ったのだが、『妻』という言葉に妙に力感と迫力があったような気がした。
……気のせいか。
「ちゃんと、じゅんびできましたね! それでは、おふろにゴー、だよ!」
サファイアが先陣を切って、お風呂場へと力強く進軍していく。
しかし俺とミリアリアは出遅れる――というかその場にとどまってしまっていた。
「い、行かないんですか?」
「み、ミリアリアこそ」
「カケルからどうぞ」
「いやいやミリアリアから」
「ママ? むらさめ? どうしたの?」
少し先、洗面所のドアに手をかけたところで、サファイアが不思議そうな顔をしながら振り返る。
風呂の用意をしたままで、いつまでも突っ立っているわけにはいかないか。
「俺たちも行くか」
「そ、そうですね」
俺が歩き出すとミリアリアが後ろをついてくる。
が、しかし空気がなんとも硬い。
なんなら突入ミッションの直前よりも張りつめた空気をしていた。
そしてついに3人揃って洗面所に到達する。
これでもう逃げ場はなくなった。
もはや服を脱ぐしかない。
風呂に入るには服を脱がないといけないからな。
うん、当たり前だ。
「うんしょ、こらしょ」
まずはサファイアが素っ裸になる。
長く太陽の光を浴びていなかったからか、肌こそ不健康に真っ白なものの。
地下の檻の中に長期間、監禁されていたとは思えないほどに、サファイアは健康的な身体をしていた。
救出した時はかなり弱々しかった記憶があるんだが、まともな食事と生活環境を与えるだけで、たった数日でここまで回復してしまうのか。
天使炉――エンジェル・リアクターの力は凄まじいな。
俺はその強大な力に驚くと同時に、逃げた研究者は間違いなく成功例であるサファイアを取り返しにくるだろうと、確信を抱いていた。
もちろんそんなことはをさせはしないが。
俺とミリアリアとイージスで、サファイアを守りきってみせる!
それはそれとして、だ。
素っ裸になったサファイアとは対照的に、俺とミリアリアはどちらも上着を脱いだだけだった。
ミリアリアも一緒にお風呂に入ろうと提案した辺りまでは、やけに積極的だったくせに、今は顔を真っ赤にして固まってしまっている。
まったく、だから言ったのに。
付き合ってもいない男と一緒にお風呂に入れるほど、ミリアリアは擦れた女の子じゃないだろ?
「ぬ、脱がないんですか?」
「ミリアリア……ママこそ」
「そ、そうですよね」
ミリアリアが意を決したように、シャツのボタンに手を掛ける。
しかしそこから先がやはり進まない。
「あの! おふろでは、ふくを、ぬぐんだよ?」
素っ裸でシャンプーハット&アヒルのプカプカオモチャを抱えて「いつでもいけるよ!」状態のサファイアに言われた俺は、ここでついに腹をくくった。
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