第11話「うん! かわむき、したよ!」
食卓にはおいしそうな料理が並んでいた。
小松菜ともやしのツナの炒め物。
レタスとキャベツとトマト、キュウリ、カラーパプリカを使った生野菜サラダ。
豆と玉ねぎのスープ。
そしてミリアリアの大得意とする肉じゃが。
「前に家に呼んでもらった時にも食べさせてもらったけど、ミリアリアの肉じゃがは絶品だよな。優しい味付けといい、ホコホコで味の染みたじゃがいもといい、定食屋でもこんな美味しい肉じゃがにはありつけないぞ」
「えへへ、お褒めいただきありがとうございます」
よく見ると、ジャガイモとにんじんの形が少々いびつだ。
なるほど、サファイアが皮むきしたのはこれだな。
「サファイアもお手伝いしたんだよな?」
「うん! かわむき、したよ!」
「2人が一生懸命作ってくれたんだ、心して味わわないとな」
でなければ末代まで続く天罰が落ちるというものだ。
そしてそれら副菜の中に、メインディッシュがやってきた。
「うん、いい感じに焼けたかな」
ミリアリアが豪勢なステーキを3人分、運んでくる。
「おおきい、おにく! すごい!」
「これまた美味そうなステーキだな。っていうか高そうだな? どうしたんだこれ?」
「お父さんが用意してくれたんです。今日は家族の始まりの日だから、いいものを食べなさいって、ポケットマネーで。一生の思い出になるからって」
「マジか。あとでお礼を言っておかないとな」
ミリアリアの言うお父さんとは、ダイゴス長官のことだ。
2人は実の親子なのだ。
外見こそ全くと言っていいほど似ていないが、正義感に溢れるところや人情味に溢れる性格はそっくりだった。
でもこれって任務だよな?
一生の思い出ってのは、あくまで一般的な結婚をした場合のことを言っているんだよな?
つまりこの場合は当てはまらないのではなかろうか?
……ま、些細なことだし今はいいか。
「サファイア、はらぺこだよ!」
「実は俺もものすごく減ってるんだ」
「ふふっ、さっきからお腹がグーグーなってるもんね」
「むらさめ、はずかしい!」
「サファイアだっていっぱい鳴らしてるだろ? 聞こえてるぞ」
「あわわ……」
慌てたように両手でお腹を抑えるサファイア。
なんとも可愛らしい仕草だ。
「2人ともお腹が空いているってことですね。それでは冷めないうちに食べましょう♪」
ミリアリアに促されて、俺たちは食卓を挟んで座った。
ミリアリアとサファイアが並んで座って、俺はサファイアの正面向かいだ。
「「「いただきます」」」
3人で手を合わせると、早速食べ始める。
「ステーキ、おいしー! すごくおいしー!」
サファイアはまず、焼き上がったばかりのステーキから食べ始めた。
「熱いから気を付けてね」
「うん! きをつける! にくじる、じゅわわ!」
ステーキと格闘するサファイアにほっこりしながら、俺は肉じゃがに手を付けた。
「肉じゃがも美味しいぞ。じゃがいもが柔らかくて、味が染みてて、最高だよ。毎日でも食べたいくらいだ」
「えへへ、喜んでもらえて何よりです」
「ママは、りょーり、じょうず!」
「でしょう? サファイアにもいっぱい教えてあげるから、練習しましょうね」
「サファイアにも、りょーり、できるかな?」
「もちろんできるわよ」
「ほんと?」
「本当よ。今日だって初めてだったけど、ちゃんと皮むきできたでしょ?」
「うん! サファイアは、できるおんな、です!」
「ふふっ、そうね。これからいろんなことに挑戦しましょうね」
「うん!」
……なんかいいな、こういうの。
心の中が、春の日差しのように穏やかになっていく気がする。
俺は幼い頃に両親を事故で無くしてからずっと、孤児院で育ったから、家族の団らんはうっすらとしか記憶がない。
15歳の時に、社会奉仕活動の一環でたまたま孤児院に来ていたダイゴス長官に魔法の才能を見出され、イージスのエージェントとして引き取られるまでは、食事といえば同じような境遇の孤児院の子供たちと、神様に祈りながら静かに食べるのが常だった。
ダイゴス長官は俺を実子のように扱ってくれはしたが、血のつながった子であるミリアリアもいたし、俺はどうしても遠慮がちにならざるを得なかった。
だから任務中の
目頭がジワっと熱くなってくるのが分かる。
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