第9話「……こほん。か、カケルパパ?」「……こほん、ミリアリアママ……」
「ここもいい部屋じゃないか。でもこのままだとちょっと殺風景かな?」
「ぬいぐるみとかあってもいいかもですね。買ってもいいですよね、カケル?」
「カケル……?」
見上げるサファイアに問われ、
「……こほん。か、カケルパパ?」
軽い咳払いをしてからそう言い直したミリアリアの頬は、うっすらと赤く染まっていた。
カケルパパなんて呼び方で呼ばれた俺も、なんとも気恥ずかしくなってしまう。
仮とはいえ、ミリアリアと夫婦の関係になるだなんて、ついさっきまで思ってもいなかったからな。
しかもミリアリアは美人で可愛いと来た。
ミリアリアにこんな風に恥ずかし気に見つめられて、ドキリとしない男はいないだろう。
もちろん、下手なことを言ってセクハラで不快な思いをさせないように、あまり顔には出さないようにはしている。
とは言うものの、ゼロにするのは難しかった。
それほどミリアリアは魅力的な女の子だから。
「軍資金なら十分貰ってるから、問題ないぞ。別に俺の許可なんて要らないから、ミリアリアの裁量で使ってくれて構わない」
オペレーション・エンジェルに関して、結構な額の活動資金が自由裁量で使うことができる。
犬のぬいぐるみを買うくらいは安いものだ。
なんならサファイアの部屋をぬいぐるみでいっぱいにしてあげてもいいくらいだ。
そして真面目なミリアリアならオペレーション・エンジェルに必要なことにしか使わないだろう。
俺は頼れる副官ミリアリアに全幅の信頼を寄せていた。
「むぅ! ミリアリアじゃなくてママ!」
「む……こほん、ミリアリアママな」
言葉自体は特別な物でもなんでもないのに、同僚をママと呼ぶのはなんだかものすごく恥ずかしいんだが!?
「ふわっ!?」
ミリアリアがビクンと肩を震わせた。
顔を真っ赤にして上目づかいで俺を見る姿は、まるで恋する乙女のようだ。
(俺は15歳でイージスに入ったから、そういった普通の色恋経験はないんで、あくまで想像だが)
「あはは、ちょっと慣れないよな。ま、気負わずいこうぜ」
ミリアリアが俺と夫婦(仮)だということを変に意識することがないように、俺は極めて軽い口調で言った――つもりが若干、声が上ずってしまった。
うーむ。
こういう経験は初めてとはいえ、強襲部隊のリーダーがなんとも情けないことだ。
これじゃあミリアリアを逆に意識させてしまう。
「そ、そうですね。カケルパパのゴーサインも出ましたので、ではサファイア。近いうちに買いに行きましょうね」
しかしミリアリアもどうにも甘ったるくむず痒い空気感を振り払うように、敢えて明るい口調で、話の続きを話し始めた。
――まだ頬は少し赤く、いつもよりも早口だったが。
「ぬいぐるみ! サファイア、わんわんのがほしい!」
「わんわんのぬいぐるみですね。ふふっ、可愛いのがあるといいですね」
「後回しにする理由もないし、明日にでもイヨンモールに買いに行くか」
「そうしましょう」
「ねぇねぇ、イヨンモールって?」
サファイアが俺の袖をくいくいと引っ張ってくる。
「いろんなお店がいっぱい集まったところなんだ」
「いっぱいって、10こくらい?」
サファイアが両手をパーにして10を表す。
「おおっと、イヨンモールを舐めちゃいけないぞ。200――はないかもしれないが、150は余裕で入ってるんじゃないか?」
「ひゃくごじゅう!?」
サファイアが両手をバンザイのように上げながら、目を大きく見開いた。
「なにせ大きな施設だから、サファイアもびっくりすると思うわよ?」
「イヨンモール、たのしみ! おみせ、たくさん! あした、わくわく!」
檻の中に閉じ込められていたサファイアは、お店で買い物をした経験はないだろう。
でもまだまだここから全然取り戻せる。
これからこの子に色んなことを体験させてやりたい。
ツインテールにした銀髪と、赤い瞳が印象的なサファイアを見ながら、俺は心の中でそんなことを思っていた。
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