七話 尾行:Ⅰ 先輩を探れ その壱

 ごきげんよう。わたくし、黒峰さゆみと申します。

 この春から高校に入り、わたくしはつい先日、理想のお姉様を見つけました。


 常盤茜先輩。凛々しく気高く美しい彼女は、正義の心と負け知らずの拳を持っており、その拳でわたくしを何度も助けてくださいました。ちょっとおバカなところはありますが、そこもまた愛おしいわたくしの愛するお方です。

 そんな彼女の勧めでわたくしは彼女の作った『部ルーム』という部に所属しています。そこには、わたくしの日々をとても充実したものにしてくれる大切なお友達と先生がいます。


 まずは白井祭華さん。

 彼女は小さくてかわいくてちょっと……いや、かなり変な人です。クズと言っても差し支えないでしょう。ですがツッコミを入れるべき時はしっかりと入れてくれるいい方です。


 次にフォミラさん。苗字がないのが不思議な方ですが、見ず知らずの女性にも優しくできる方です。話をややこしい方向へ持っていく天才だとわたくしは思っています。


 そして最後に綴さん。一番よくわからない方です。祭華さんに激しく付き纏う変態かと思えば、茜先輩と殴り合い仲を深め合い、互いに認め合う仲にまでなっています。熱い友情を交わしています。

 殺してやりたいくらいの仲、わたくしも憧れますわ。

 いったい祭華さんが好きなのか、茜先輩が好きなのか、わからない方です。

 実を言うと、綴さんだけではなく、祭華さん、フォミラさん、茜先輩についてもまだよくわかりません。

 わたくしを置いてどんどんと収集のつかない方向へ行く皆さん。わたくしもついて行きたい。先生も含めた六人で行きたい。特に茜先輩とともに生きたい。

 わたくしは作戦を決行することにしました。皆さんを知るために、茜先輩といるために。


          ☆☆☆


 とある日の放課後。そろそろテストという大事件を背に、私たちは部室でゆったりと平和な時間を過ごしていた。まるでテストなんて最初からなかったと言わんばかりに。

 私は一つ、また一つとページを捲る。

 本は人生の教科書。読書は人生の逃げ場。本の世界に逃げ込んで、私はこの残酷な現実から目を背けていた。


「祭華ちゃん祭華ちゃん、それ、本じゃなくてラノベだよ?」

「本は本でも人におオススメしづらい本ってなーんだ」

「………………」

 また一つ、ページを捲る。すると挿絵に差し掛かった。おぅ、シー イズ ボイン。


「やっぱり祭華ちゃんは巨乳好きなんだね。ここに二人もいるのに、なんで二次元なの?」

「祭華、揉めない巨乳より揉める巨乳」

 挿絵を舐め回すように確認してから、また次のページへ。

 この主人公、なんて羨ましいんだ。ラッキースケベ放題じゃんか。


「祭華ちゃん、そろそろ読書飽きてない? 私の胸の中が空いてるけど、お昼寝しない?」

「祭華、わたしなら全部脱ぐ」

 背けきれない現実が、そこにはあった。


「うるせえなお前ら! せっかく人がおとなしく優雅に午後の読書タイムを楽しんでたところによぉ! なんで邪魔しにくるんだよ! お前らもおとなしく読書でもしてろよ!」

「私同人誌しか持ってないから読んだらムラムラしちゃう。学校なんかじゃ読めないよ。せめてトイレか保健室じゃないと」

「本なんて、祭華秘蔵写真集『プライベート祭華。エッチな侵略』しか持ってない」

「え、何それ。私も見たい」

「ダメ。フォミラには刺激が強すぎる。わたしですら命を覚悟する代物」

「なんでそんなもん学校に持ってきてるんだお前ら!」 

 怒りを通り越して呆れも一周して、また怒りがカムバックしてきた。


「え、主食のおともに」

「我慢できなくなった時用」

「つまりオカズってことだな!」

 もう疲れた。誰かこの変態たちをどうにかしてください……。

 私が息切れしながらそう懇願していると、その願いを神様が叶えてくれたのか、ガチャっとドアが開く音がした。


「ごきげんよう」

 私を救ってくれた救世主、メシアさゆみ。私たちと同じ魔法少女で、私たちと同じクラスの今作屈指の常識人。だけどたまに暴走するので侮れないやつとなっている。

「あ、さゆみちちゃんさっき振り。さゆみちゃんはどんな本が好き?」

「え、わたくしですか? えっとー……ついこの間『マリア様が○てる』という小説を読み返しましたの。とてもいい作品でしたわ」

「まり○てね。思ったより普通だけどブレないところ、いいと思う」

 あぁ、さゆみまでフォミラのペースに乗せられちゃった。

 もう私をこの二人から救ってくれる人はいないのか……。


「それよりも、わたくし、皆さんにお願いがあるんですの」

 私ががっくしと肩の力を抜かして綴にスカートを好き放題されていると、次こそはメシアとなってくれそうなさゆみの言葉が耳に入った。


「はい! なんなりと!」

 スカートの中でハスハスしてる綴を蹴飛ばして、私はさゆみの前で膝をついた。

「ぶがっ……。でもよかった。祭華の上履きをあらかじめ脱がしておいて。わたしは、祭華のソックスつきの足に蹴られた。とても素敵なソックスでした……がく」

 フォミラに抱きかかえられている綴は、勢いよく息を引き取った。


「綴ちゃ〜ん! 生足じゃなくていいの〜!?」

「生足の方が好き」

 あ、生き返った。

 私がもうメシアそっちのけで綴の方を見ていると、ゴゴゴゴゴという念が私の前から伝わってきた。そしてその主は、ゆっくりと二人の前に仁王立ちをし。

「あの、話、聞いてもらえますか?」

 そう言い放った。

「「…………は、はい」」

 変態二人を黙らせたメシアさゆみ。

 さすがダァ……。私、今度からさゆみだけは怒らせないようにしよう。おとなしい子は怒らせると一番怖いってね。


「わたくし、この部に入っても、皆さんと出会ってからもまだ日が浅いじゃないですか。特に茜先輩とは」

 と言うわけで、本題に入るさゆみ。茜先輩という部分だけ妙に力がこもっていた気がするけど、それは私の気のせいなのかな。


「特に茜先輩とは」

 二回目言った。気のせいじゃなさそうだ。

「で、私たちに何をするの?」

 とフォミラが訊ねる。

「はい。わたくし、いくつかの質問を授業中に作って参りました。なので、これからあなたたちには一人づつわたくしとマンツーマンで回答してもらいたいと思っています」

「ほ、ほう……」

 つまり、二者面談ってこと?

「まずは祭華さん、他の方は外に出ていてください」

 間髪入れずにそう命じてくるさゆみに、なす術もなく二人は外へと追いやられていった。

 質問って、どんなこと訊かれるんだろう……。


 それから数分後。私の前に座るさゆみは、メモ帳を開いて言った。

「まず、好きな女性のタイプはどんなですか?」

「え、まずそこなの!?」

 あまりにも唐突な質問に驚かされる。明らかに最初に訊く話じゃない。

「女性の趣味さえわかれば、それ以外のこともおのずと導き出されます」

「へ、へぇー」

 あまりにも真剣な眼差しで言うもんだから、冗談に聞こえない。ていうかこれ、冗談じゃなくてマジで言ってるやつじゃん。

 若干清楚系お嬢様属性を疑いつつ、わたしは答えることにした。


「おっぱいがデカくて、身長も私よりは欲しいな。て言っても、私より身長低いのなんて小学生くらいだけど」

 ほうほうと相槌を打ちながら、真剣に聞くさゆみ。

 …………。なんか、これ言ってて恥ずかしい。

「そうですか……。つまり、祭華さんはお姉さん好きということですね? おねロリということですね?」

「…………た、たぶん、そう」

 清楚系お嬢様の口からおねロリなんて言葉が飛び出してきたものだから、ついつい反応に遅れが出てしまった。


「なるほど。理解しましたわ。わたくしもおねロリはよき文化だと思います。妹を舐め回し優しくやらしく導く姉の姿を想像するともうよだれが止まりません」

「ほぇ〜」

 返す言葉がなさすぎて呆けた声が出てきた。性癖が溢れてる。

 そんな呆けている私に、さゆみは次なる質問を投げかけてきた。ようやく新しい話題だ。


「茜先輩のこと、どう思ってます? よく助けられているのを見かけますけど」

「え、私がいつ助けられたの?」

 質問を質問で返しちゃいけないって習ったけど、これだけは訊きたくなった。

 だって、思い当たる節がなさすぎる。むしろ余計なことしかされてない。


「忍び寄る綴さんの下心満載な手からよく守ってもらってるじゃないですか。もしかして、祭華さんって結構恩知らずな方?」

「ぐうぅ……。抑えろ。抑えろ、私」

 今にも飛び出そうな右拳を左の手で抑え込む。

 相手は無自覚で、天然で言ってるんだ。でなきゃあの先輩が私を助けてるだなんて勘違いはしない。たとえどんなバカでも盲目なやつでも。

「えっと……助けてくれるのはありがたいんだけど、話を変な方向に持って行こうとするからめんどくさい。軌道修正するのが大変」

 そんな盲目を覚させるべく、私は思ったことをストレートに口にする。


「わたくしが見ている中ではそこまで軌道修正しているようには見えませんけど。というよりも、祭華さんはボケ役ではないのですか? 変な方ですし」

「うぐっ……」

 痛いところを突かれた。清楚系天然お嬢様から言われるとダメージが増大する言葉を。

 もうお嬢様怖い……。早く変態に慰めてもらいたい。

 私が自ら変態を求めるなんて、天然ってすごい。

「ではこれにて面接は終わりです。祭華さん、次のフォミラさんを呼んできてください」

「え、あ、はい……」

 冷たいさゆみの言葉に、若干躊躇いつつ部屋を出た。


「フォミラ、さゆみが呼んでる」

「うん。で、どんなこと訊かれた?」

「えっと……覚悟しておいた方がいいよ」

「へ?」

 呆けた顔をするフォミラ。その顔が後に歪むことになるのが容易に想像できる。

 それだけ恐ろしいのだ。清楚系天然毒舌お嬢様は。


          ☆★☆


「密室で二人きり、エッチだね。このままおっぱじめても無理なさそう」

「…………わたしは祭華としかやらない」

「違う違う。私たちじゃなくって、あっちの部屋の二人だよ〜」

 あっちの部屋の二人……。

 隣の部室。そこには祭華とさゆみがいる。

 あの二人がおっぱじめる……?


『祭華さん、わたくし、こう見えても大きい方なのですよ? 普段はサラシを巻いて隠していますけど』

『わ〜い。巨乳大好き〜』


 ………………。

「あり得ない。それにさゆみは洋風貴族。サラシなんて巻かない」

「サラシ?」

「そこは引っかからなくていい」

 ぽかんとしているフォミラにそう返す。するとちょうどそのタイミングで、ガラガラと扉が開く音がした。

 どうやら祭華が戻ってきたらしい。

 でもどうしてだろう。部屋に入る前よりも、どこか弱ってるような気がする。


「フォミラ、さゆみが呼んでる」

 祭華の言葉で立ち上がり、少しだけ会話をしてから、フォミラは面接会場へと足を運んだ。

 代わりに祭華がフォミラのいた席、わたしの隣……ではなく、わたしの膝の上に座り込んだ。

 …………へ? わたしの膝?

「綴、私の頭、撫でて」

 力のない声で言ってくる。

「…………へ?」

「いいから」

 動揺してる暇なんてない。わたしは祭華の催促に動揺しつつ興奮しつつ、ぎこちない手つきで頭を撫ではじめる。

 柔らかくてすべすべの細い髪が、わたしの手に馴染んでいくのが伝わってきた。頭を撫でるだけでこんなに幸せな気分になれる。やっぱり祭華は最高。

 そんな頭を撫でるだけで満足しているわたしに、更なる幸せがダイブしてきた。


「ねえ、私ってツッコミ役だよね?」

 祭華はそう上目遣いで訊ねながら、胸に飛び込んできたから。

 ヤバい。かわいすぎて死ぬ。わたしの嫁がかわいすぎて死んでしまう。

「うん……。ツッコミ役だよ」

 そのまま乳を揉みはじめる祭華に、そう答える。

 本当は頭も悪いしボケだと思うけど、今は祭華のかけてほしい言葉をかける。

「よかった。私のことしっかりツッコミって思ってくれてるの、綴だけだよ。いつも私が綴にツッコミ入れてるんだから当たり前だけど」

「うん。いつもツッコミ入れてくれて、ありがとう」

「うん。これからも、私をツッコミでいさせてね」

 そう告げる祭華の表情があまりにもかわいくて、つい悶絶して廊下を転げ回ってしまいそうになる。だけど、今はそんなことできない。してはいけない。

 代わりに祭華のより一層強く抱きしめて、衝動を抑える。

 それからしばらくは、この幸せの時間を堪能した。祭華と二人きりは久しぶりだから。


          ★☆☆


「では最初の質問です。フォミラさんは自己紹介の時女の子なら誰でも好きと言っていましたが、特にどのような娘が好きなのですか?」

 最初の質問がこれだなんて。中々やるね、さゆみちゃん。


「不真面目で単純、人のミスをすぐに煽っちゃうメスガキ性質。そして、加護欲をくすぐる容姿。そう、祭華ちゃんみたいな」

 本当はもっと欲望はあるけど、さゆみちゃんは性癖座談会初心者に見えるからこれだけ。実はエッチする時は「……くれば?」みたいなヘタレ受けで、いつもはツンツンしてるけど寒い日とか甘えたい時は何も言わずにボフッと胸に飛び込んできてくれて恥じらいながら「……ねえ、寒いんだけど」って言ってくれるツンデレ気質で、ことあるごとに胸に顔を埋めようとしてくれるちょっぴり恥ずかしがり屋だけどエッチな娘で、私が疲れてると無粋な顔で「ん、使えば? 私の膝」って言ってくれて、私がダル絡みしても口では「熱い! 邪魔! 離れろ!」とか言ってくるけどちゃんと受け止めてくれる優しい感じで、私が甘えたい時も最初は罵声を上げまくるんだけど最終的には受け入れてくれて、いざ付き合いはじめたら「せっかく付き合ったんだしさ……その、いつもとは違うことしたいんだけど」ってちょっといつものツンツンとは違う上目遣いで言ってきて、普段は恥ずかしくて言えないことも二人きりとか寝言とか安心しきってる時にだけは言ってくれたり……。


「あの……次の質問、していいですか?」

「あ、ごめん。妄想の世界に入っちゃってた」

「大丈夫です。ある程度は声になってましたから」

 え、嘘。私のありとあらゆる欲望が、さゆみちゃんに聞かれちゃったってこと? 教育に悪すぎる。けど、自分の手で清楚系天然お嬢様を穢すのって気持ちいい。

「えっと、フォミラさんが思うより、わたくしは清楚ではないですよ?」

「え、それ詳しく!」

 もう心の声ダダ漏れとか、そんなものは全てどこかへ飛んでそっちが気になった。


 つまり処女じゃないってこと!? そういうこと!? もしかして相手はおうちにいて十五年間さゆみちゃんの成長を見守ってたメイドとか!? 主従関係百合とか!? そういうことなの!? もしかして「お嬢様、申し訳ありません。私は我慢もできず、挙げ句の果てにお嬢様に欲情してしまう酷いメイドです。どうかお許しを……」ってこと!?


「え、ええ。まずフォミラさんが考えているようなことはないので安心してください。ただ、わたくしは清楚ではありません。エッチな本だって買います。夏や冬になるとコミケンにも足を運びます」

 あー、そういう清楚じゃない感じね。つまりバージンなのは変わらないんだね。よかった。

 そうほっとしていると、さゆみちゃんは次なる質問へと移る。


「茜先輩のことは、どう思いますか?」

 おおぅ。かなり直接的に聞くね。やっぱりさゆみちゃんは先輩のことが知りたくて自分よりも少しだけ付き合いの長い私たちに話を聞くことにしたってことだね。

 一途でかわいい。守りたくなっちゃう。

「かわいい女の子だよ。私にとっては祭華ちゃんも綴ちゃんもさゆみちゃんも茜先輩も美兎ちゃんも、みーんなかわいい女の子だよ」

 満面の笑みでそう答える。

 柄にもなくいいこと言っちゃったかな。そう少し照れくささを覚えつつ、さゆみちゃんの返事を待っていると。


「…………今、ゾワっと寒気がしました」

「…………私、今すっごい悲しい」

 清楚系天然お嬢様から放たれるまさかの毒舌が、私の心にはちくっと刺さった。

 けど、その痛みもまた心地よし。

 変な性癖に目覚めそう。

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