裏切りの代償『美咲と直人の禁断の約束』

シュン

第1話 序章: 交差する運命

序章: 交差する運命


美咲と直人の初めての出会い


東京の喧騒がまだ新鮮だった頃、美咲はその街の片隅で、運命という名の偶然に直面した。


その日は、まるで特別な何かが起こる予感で満ちていた。


空は高く、雲一つない秋の午後。


街は人々で溢れ、彼女は人波に揉まれながら、新しい仕事の面接へと急いでいた。


美咲は、小さな田舎町から上京してきたばかりの女性だった。


彼女の目は常に好奇心で輝いており、新しい生活に胸を躍らせていた。


しかし、同時に少しの不安も抱えていた。


都会の生活は田舎のそれとはまるで違い、彼女は時折、その速さに圧倒されることがあった。


そんな中、彼女は直人と出会った。


彼は、美咲が面接に向かうビルのエレベーターで偶然隣に立っていた男性だった。


彼は落ち着いた雰囲気を持つ、優しげな笑顔の持ち主で、どこか憂いを帯びた瞳が印象的だった。


「すみません、このビルの6階に行きたいんですが...」


美咲が戸惑いながら声をかけると、直人は優しく微笑みながらボタンを押してくれた。


「こちらですね。私も同じ階に行きますよ」と彼は答えた。


エレベーターの中での小さな会話は、二人にとって意外なほど自然で心地よかった。


直人はこのビルで働いていること、美咲は面接に来たことを話し合った。


彼女の緊張が少しずつ解けていくのを感じながら、直人は彼女にアドバイスをくれた。


「面接、大丈夫ですよ。自分を信じてくださいね。」


6階でエレベーターが開いた時、二人は思わず笑みを交わした。


別れ際に、直人は「頑張ってください」と励ましの言葉をかけた。


美咲は「ありがとうございます」と感謝の言葉を返し、彼女たちはそれぞれの道を歩き始めた。


面接は思ったよりもうまくいき、美咲は帰り道、エレベーターでの出会いを思い出しながらほほ笑んだ。


直人の言葉がどこか心に響いていた。彼女は気づかないうちに、彼の優しさに少し心を奪われていたのだ。


その日から、美咲の日常に小さな変化が訪れた。


彼女は直人との再会を密かに期待するようになり、時折、そのビルの前を通りかかることが増えた。


そして、偶然を装いながら、彼との再会を夢見るようになったのだった。


直人もまた、その出会いを忘れることができずにいた。


美咲の明るく前向きな態度が彼の心に新しい光を灯した。


彼は何気ない日常の中で、彼女のことを考えることが増えていった。


彼にとっても、この出会いはただの偶然ではなく、何か特別な意味を持っているように思えた。


数週間後、運命は再び二人を引き合わせた。


美咲がそのビルの近くを歩いていると、偶然直人と目が合ったのだ。


彼は驚いたように彼女を見つめ、そして、温かい笑顔を見せた。


「こんにちは、また会えましたね」と直人が声をかけると、美咲の心は高鳴った。


「はい、偶然ですね」と彼女は答えたが、その偶然がどれほど彼女にとって意味のあるものだったか、直人は知る由もなかった。


その日の午後、二人は近くのカフェでコーヒーを飲みながら、話に花を咲かせた。


直人は、自分の仕事や趣味について話し、美咲は上京してきた理由や夢について語った。


二人の間には、すぐに自然な会話の流れが生まれ、時間が経つのを忘れるほどだった。


しかし、この穏やかな時間は、二人にとって甘美な罠の始まりに過ぎなかった。


美咲は直人に惹かれていく自分を感じつつも、彼が既に結婚していることを知り、心が揺れ動いた。


一方の直人も、美咲への感情を抑えることができずにいた。


彼らの関係は、この偶然の出会いから徐々に深まっていく。


美咲は、直人と過ごす時間が心の支えとなりつつあった。


一方で、彼女は自分の感情と、それが招くかもしれない結果に戸惑いを感じていた。


直人もまた、美咲への想いを深めつつ、その感情がもたらす葛藤に苦しんだ。


彼は自分が築いてきた家庭と、新しく生まれた美咲への想いの間で揺れ動いた。


このようにして、二人の禁断の約束は、静かにその幕を開けた。


美咲と直人は、互いに惹かれ合いながらも、その関係がもたらす複雑な感情の渦に飲み込まれていくのだった。


この出会いは、美咲にとっても直人にとっても、避けられない運命のように思えた。


しかし、その運命が彼らに何をもたらすのか、その時点ではまだ誰にも分からなかった。


彼らの物語は、甘く切ない序章を終え、次章へと進んでいくのだった。

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