稽古

 庭に移動し、お互い木刀を構える。

 と言っても、俺のは短剣だけど、

 アリスさん曰く、「君はその方がやりやすいだろ?」との事。

 実際その通りなので、有り難く使わせて貰うとしよう。


「私の剣技に何か悪いところがあったら遠慮なく言ってくれ。あと、君の剣技である受け流し方もな」

「あはは……」


 悪いところって……俺に見つけられるかなぁ……?


「それではこれより、アリス様とルイド様の模擬戦もぎせんり行います」


 そう執事さんが言った事で、俺らの間に少しピリッとした緊張が走る。


「それでは……始め!」


 直後、アリスさんが俺に向かって物凄い速度で突っ込んでくる。

 あの構えは……突きだな。

 俺は剣の刃の部分をちょうどアリスさんの刀にう様にし、受け流す。


「くははっ! やはり君の受け流しの腕は物凄いなぁ!」


 次々と迫ってくる剣に、なんとか短剣を使って応じる。

 マズイな……いつも使ってる短剣じゃないから、少しだけ感覚が合わない。


「そこっ!」

「ぐっ!」


 そんな事を考えていたら、腹に強烈な突きを貰ってしまった……!


「痛っつつつつつ……」

「どうした? 闘技力祭の時の君はこんなものではなかったぞ」

「ははは……ちょっと調子が合わなかっただけですよ。でも大丈夫です。もう慣れました」

「ほーう……」


 短剣を持ち直し、構える。


「今度は、こっちから行かせて貰いますよ?」

「来い」


 その瞬間、俺は常人では目で追うことも難しい速度でアリスさんに迫った。

 だが、アリスさんはその攻撃に対応し、短剣を弾き返す。

 しかしその弾き返しを、俺は受け流す。

 本来、弾き返された場合は体勢が少し崩れる。

 だがその体勢を崩す為の弾き返しが無効化されて場合、何が起こるのか。

 答えは、弾き返した方が、むしろ体勢が崩れる、だ。


「なっ!?」

「そこぉっ!」


 タァンといい音が鳴り、アリスさんの腹に俺の木刀のが当たった。


「……腹?」

「闘技力祭とかそういう時以外では、女性に痛い思いさせたくないので」

「ふっ、そういう奴だったな、君は」


 すぐにお互い距離を取り、また剣を合わせる。


「アリスさん、その……」

「何だ? 遠慮なく言え」

「えっと、右上から左下に斬り下ろす際、手首が5°左に傾いてしまっています。それだと、こうされると……」

「う、うわっ!?」


 ドテーンとアリスさんがすっ転ぶ。


「こんな感じで、簡単に体勢を崩されてしまいます」

「くはは……凄いな君は……他の剣士が今まで一度も言ってこなかった事……いや、気付く事すら言えなかった事を、この短時間で気付いたんだからな」

「他人より少し目が良いだけですよ」

「それだけで私との模擬戦でここまで出来ないさ」

「そうですかね?」

「そうさ」


 そんな会話をしながら、俺らはまた剣を合わせるであった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「「ぜぇー、はぁー、ぜぇー、はぁー」」

「ルイド様」

「アリス様」

「「こちら、お水です」」

「「あ、ありがとう(な)……」」


 稽古開始から数時間が経ち、ぶっ通しで剣を交えていた俺らは、庭にてぶっ倒れた。


「ふぅー、生き返るー」

「だな」


 水を飲んだ後頭から被り、体の熱を冷ます。

 頭に水が掛かった事により、視界と思考がシャキッとする。


「それにしても、本当に君は強いなぁ……」

「ははは、それほどでも……」

「いやいや、謙遜けんそんする事はないぞ、何せ聖騎士の副団長と渡り合うどころか、それを超えているんだからな」

「それは、そうなんですけどねー……」


 やっぱり、まだあまり現実感が無い。

 俺が、それほどまで強くなれている事が。


「取り敢えず、もう少ししたらまた模擬戦を再開しよう。よろしく頼むぞ? 

「せ、先生!?」

「だって、剣技……正確に言えば君の受け流し方を教えて貰うんだ。そう呼ぶ方が正しいだろ?」

「で、でも……」

「おや? 師範……とかの方が良かったか? 或いは教官とか……」

「そ、そういう事ではなくてですね……! あー、もう先生で良いです、先生で」


 物凄く恥ずかしいけれど、それ以上変な呼び方をされたら嫌だからな……。


「分かった。それじゃあ頼む。先生」

「……はい……」


 そうして俺らはまた模擬戦を再開し始めた。


 ◾️ ◾️ ◾️


「それで、こうするんです」

「ほうほう」

「すると、力がこっちの方に抜けるので、ここで、こうします」

「おぉ……」

「これで、この角度かはの攻撃の受け流しが出来ます」

「いやぁ……凄いな」

「はは、ありがとうございます」

「一種の芸術作品としか思えん」

「褒めすぎですよー」


 ルイドがほんのり顔を赤くさせながらそう言う。

「さてと、お次は……」

「はい!」


 そんな稽古の風景を、エリシアとラルムと、アリスの執事であるセバスはのんびりと見ていた。


「頑張っていますね……」

「その様ですな。アリスお嬢様があの様な方と知り合えた事……このセバス、嬉しい限りございます」

「そ、そうですか……」


 アリスへ愛がこもった目線を向けるセバスに、エリシアは少し引き気味にそう返事した。


「それにしても、彼の方の剣技はとてつもないものですな……。アリス様があそこまで太刀打ち出来ないとは」

「ルイド様ですから!」

「……なるほど」


 そう言ってセバスはアリスをもっとよく見るために目を細めた。


「ははは。いやはや、あんな攻撃の受け流し方をこの世に出来る人がいるとは……これまで散々歳を食って来ましたが、世界にはまだまだ知らない事がいっぱいですな……」

「セバスさんは……その、アリスさんの執事になるにはどういった経緯があったのですか?」

「ふーむ……申し訳ありませんエリシア様。簡単にまとめる事が出来ぬ内容でございます故、この場で申し上げる事は出来ません」

「あっ、そうなんですか……では是非また今度お聞かせ下さい」

「かしこまりました」


 そんな会話をして、エリシアとセバスはルイド達の稽古を眺めるのであった。


「むぎゃっ」


 そして、ラルムはトイレから戻る途中の階段にて、空中を540°回転しながら綺麗に頭からすっ転ぶのであった。

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