お弁当

 調査本部に入ると数十人の人達が椅子に座っていて、手元の資料に目を通していた。


「取り敢えず座ろうか」

「はい」


 俺は椅子に座り、ヴルーケさんを見る。


「よし、それじゃあ全員集まった様だし、現在判明している事のおさらいをするぞ」


 ヴルーケさんがそう言ってホワイトボードに色々書いていく。


「昨日の午前二時に、闘技場にて爆発が起こった幸いな事に、死者は0名、負傷者は十五名、軽傷者は10名で、全員夜間の警備をしている者達だった。爆発の原因は、ルシュタールが使用されてて自爆魔法が付与された腕輪で、周囲には誘爆させる為に設置されていたのであろう爆弾の破片が散らばったいた。で、犯人はまだ見つかっていないって感じだ」


 改めて聞くと本当に死者数0名なの奇跡だな……。


「で、俺らはこの事件の犯人を見つけなきゃいけない訳だが、取り敢えず魔法痕まほうこんを探してみる所から始めよう」


 魔法痕とは、その名の通り模倣を使用した際に残る痕だ。

 まず魔法やスキルは、自身のMPと周辺に存在する魔素を消費する事よって発動出来る。

 だがその際に、魔素が消えた部分を別の魔素が修復するのだが、その際魔素は分裂してその消えた部分を埋めるのだ。

 そしてその修復した魔素は、周りの魔素と少し違う性質になる……らしい。

 俺は別に魔法専門家じゃないからな……そういうのはよく分からない。

 ともかく、その違う性質になった魔素が、魔法痕という訳だ。


「今回のは自爆魔法だし、かなり大規模な魔法痕が残っているだろうから、まあすぐに見つかるだろ。それじゃ、早速調査を開始しよう」


 そうして俺らは闘技場へと向かった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「……やはり、物凄い規模の魔法痕が残っています」

「そうか。大きさは?」

「半径が……およそ50mです」

「ご、50!?」

「はい、ここまでの大規模な魔法痕は……」

にて観測されて以来か……」

「です」


 そんな会話をそばで聞きながら、俺らはアリスさんと共に魔法痕の性質を調べていた。


「魔王討伐……?」

「知らないのか?」

「すみません、学校には通えなかったので歴史とかにはうとくて……」


 そう、俺は幼少期に色々あって、勉学に励む事が出来なかったのだ。


「す、すまない……」

「いえいえ、お構いなく」

「あー……魔王討伐について、説明しておいた方が良い……か?」

「是非お願いします」

「分かった。魔王討伐というのはだな……」


 アリスさんが話した内容を簡潔にまとめると、数十年に一度、モンスターの王である魔王がこの国からは遠く離れた魔境という場所にて誕生し、それを勇者とその仲間達が討伐する事、らしい。

 因みに、勇者は全種族の中でも最も強い者たちの中の最も強い者がなれるらしく、今回は俺ら人族らしい。

 ……なんで人族がなれたんだ?


「とまあ、こんな感じだな」

「なるほど、ありがとうございます」

「「ありがとうございます」」

「気にするな。さ、手を動かすんだ」

「はい!」


 そうして、俺らはより一層速く手を動かして作業し始めた……


「は……速すぎじゃないか……?」


 ◾️ ◾️ ◾️


「よし、そろそろ休憩にしよう。昼は一緒にどうだ?」

「良いですよ。エリシア達は?」

「「もちろん、ご一緒します!」」

「回答早すぎないか……!?」


 なんか先程も聞いたような言葉を聞きながら、俺らは昼食を食べる為に近くに設置されたテントの中へと入って行った。


「弁当はあるか?」

「え、お弁当……ですか……?」

「ああ。無いのか?」


 ……無い……よな?


「俺は無いです」

「わ、私も……無いです……」

「私もです……」

「私以外全滅か……仕方ない、少し分けてやろう」


 あっ、なんか嫌な予感が……。


「よいしょ」


 そう言ってアリスさんが取り出したのは……。


「今日はかなり大変な調査になりそうだったからな、いつもより少し多めに作って来たんだ」


 50cm程の高さはあるお弁当だった。


「お、お弁当!? それが……!?」

「ああ。何か変か?」

「いや、その……えぇ……!?」


 いくらなんでもこれは高すぎないか?

 それに、何段あるんだこれ? てかなんでこんな弁当箱があるんだ?


「ほら、受け取れ」


 アリスさんがそう言っての量のお弁当を渡して来た。

 ……さっき、少しって言って……あぁ、アリスさんの『少し』は俺らの少しとは違うんだった……。


「エリシアちゃんも、ほれ」

「あっ、ありがとうございます……」


 エリシアが苦笑いしながらお弁当を受け取る。


「ラルムちゃんも――」

「わっ、私はあまりお腹が空いていないので……す、すみません……」

「そうか……でも、食べないと力が出ないからな、少しは食うんだぞ」


 そう言ってラルムにはちゃんと一人前の弁当が置かれた。

 とはいえ、一つ一つの具材が大きい。

 ラルムのあの小さい口で、あれを全部食べ切れるのか……?


「それじゃ、いっただっきまーす!」

「「「い、いただきます……!」」」


 アリスさんは箸を持つとすぐに一段目を食べ終える。

 食べ終えるまでの時間、およそ5秒。

 ……アリスさん? ちょっと食べる時人間やめるのやめて貰えます?


「がっつ(一段目完食)がっつ(二段目完食)むっしゃ(三段目完食)むっしゃ(四段完食)」

「「「…………」」」


 なんか一口で全部食ってるんだけど?

 口の大きさどうなってるの?


「ごくん……ふぅー……がつがつがつがつ」


 俺らは中身が消えていくお弁当とアリスさんを見ながら、チビチビとお弁当を食べ始めるのであった。

 因みに、お弁当の味は絶品だった。

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