馬車

「旅の支度は出来た?」

「もちろんです!」

「でっ、出来てます!」

「よし、それじゃあ行こう!」


 俺は扉を開け、ヨロプに行く馬車を待つ待合場へと向かう。


「それにしても、この街で色々あったなぁー」

「そうなんですか?」

「ほら、まず俺が永劫の剣から追放されただろ? それであのダンジョンで俺は転移型トラップを踏んで深層に落ちたけどなんとかレベルを上げれたし、経験も積めた。でもやっぱ――――エリシアとラルムに会えたのが一番大きいかな」

「「!」」


 エリシア達の瞳が大きくなり、俺の事を見つめてくる。


「えっ、なっ、何?」

「ルイド様……その……前にも言った通り、不意打ちは如何いかがなものかと」

「そっ、その通りです!」

「え? えっ?」


 俺、何かいけないことしちゃったのか?


「ご、ごめん、なんか嫌な事をしちゃった?」

「いえ、お気になさらず、どちらかというと私達が悪いのです」

「そ、そうですね……」

「……?」


 やっぱ女心って難しい。


 ◾️ ◾️ ◾️


「着いたぁー!」


 宿から歩いて大体三十分、俺らは目的地である待合場に到着した。


「じゃあ、ヨロプへ行く馬車の前に行こうか」

「そうですね」

「はっ、はいっ!」


 そして俺らはヨロプ行きの馬車が来る場所まで移動し、近くに設置されていた椅子に腰掛けた。


「疲れたねー」

「ですねぇ〜、中々歩きましたし」

「ふぅー……」


 その時、俺に太陽の光が当たらなくなった。

 真横に誰か来たのだ。

 見てみると、190cmはあるであろう巨体の大男だった。


「すんません、隣良いですかい?」

「あっ、どうぞどうぞ」

「よっこらせっと」


 大男は俺の隣に座り、しばしの間沈黙の時間が続いた。


「あんたはんは……あぁ……お名前はなんですかい?」

「ルイドです」

「俺ぁヴィリットっつーもんですわい。ルイドはんは何故ヨロプに行かれるんで?」

「え、えーと……」


 その国の王様に呼ばれたからなんて言えないよな……。


「あっちには良いクエストがあると聞きまして……」

「ほぉ? どんな?」

「簡単な内容なのに報酬が高い、というような感じの……」


 字面だけ見たら完全に詐欺だな。


「へぇー、そんなクエストがあるんですかい。いやぁー、勉強になりましたわルイドはん」

「ははは……どういたしまして……」


 ごめんなさい嘘です!


「まもなくヨロプ行きの馬車が来やーす、乗客の皆さんはそろそろご準備下さーい」

「おっ、んじゃあ俺ぁもう行きますわぁ、向こうで会えたら、何かお話でもしましょうやい」

「ええ、構いませんよ」

「ではぁー」


 そう言うとヴィリットさんは馬車が来る方へ移動して行った。


「さっきの方、独特な喋り方でしたね」

「多分、西の方の喋り方だよ」

「ご存知なのですか?」

「俺があのパーティーに所属していた時にそっちの方の街へ行ったんだ。その時大体の人が今みたいな喋り方だった」

「へぇー……流石ルイド様、物知りですね」

「はは、照れるな」


 そう会話をしていると、カタカタパカラと音を立てながら馬車が止まった。

 乗りやすいように小さな階段が設置されると、待っていた人が次々に乗り込んで行った。


「俺らも行こう」

「そうしましょう」

「分かりました!」


 そうして俺らはヨロプ行きの馬車に乗り込んだのだった。


 ◾️ ◾️ ◾️


「それじゃあ、出発いたしやす」


 御者ぎょしゃさんがそう言って馬を走らせ始める。


「さて、と。ヨロプに着く前に、ちょっとヨロプについておさらいしておこうか」

「「お願いします!」」

「まず、ヨロプはこの大陸の東側にある国で、農業がさかんらしいんだ。それで、ここの名物がボリーブってやつでね――」


 そこから俺は知る限りのヨロプに関する情報を言っていった。

 この情報源はどこかというと、昔たまたま見たヨロプのパンフレットだ。

 まさかこんな所で役に立つとは……。


「とまあ、大体こんな感じかな」

「教えて下さりありがとうございました」

「ありがとうございました!」

「ははは、どういたしまして」


 そうして会話が終わり、耳に馬のパカラッ、パカラッという足音が聞こえて来る。


「あっ」


 少し暇だったのであたりを見回していると、普通の騎士よりも派手な格好をした騎士が座っていた。

 皆んなも彼を見ている様だ。

 多分あの人……聖騎士だな。

 聖騎士とは、騎士団の中でもかなり位が高い騎士の事だ。

 騎士の憧れの存在である。


「……ん?」


 彼と俺の目が合う。

 すると彼は立ち上がり、俺の方に歩いて来た。

 えっ!? な、何で何で!?

 俺が焦っている間に彼は俺の横に座った。


「ど、どうも……」

「……」


 むっ、無言!

 何で来たんだ!?


「私は……」


 あっ、喋り出した。


「聖騎士の、ミラギと言う。お前の名は何という?」

「ル、ルイドです」

「ルイド……か……という事はお前があの……」

「え?」

「いや、何でも無い。気にするな」

「はぁ……」


 お、俺がどうかしたんだろうか?


「ゴッホン! お前は何をしにヨロプへ向かう?」

「あー……」


 先程のヴィリットさんにいたような嘘を言ったら、ミラギさんは聖騎士だしバレてしまうかもしれない。

 ど、どうしよう……。


「すまない、冒険者に旅の理由を聞くのはご法度はっとだったな」

「いえいえ気にしないで下さい……あれ? 俺冒険者だって名乗りましたか?」

「私はこの聖騎士という職に就いて長い。だから、人を見るだけでその人がどのような事を生業なりわいにしているのか分かるのだ」

「へぇー……」


 ミラギさん……俺よりも観察眼が凄そうだな……。

 流石聖騎士、そういうのもちゃんと鍛えてるんだなぁー……。


「もし、盗賊なんかが現れたら、私と共に戦ってくれたまえ」

「あっ、分かりました」

「ではな」


 そう言うとミラギさんは自分が元々座っていた場所に帰って行った。


「と、盗賊なんかが出るんですか?」


 ラルムが少し怖がりつつ聞いてきた。


「多分出てこないよ。最近は滅多に無いし」

「そ、そうなんですね……良かったです……」


 そうホッとした瞬間、馬車が大きく揺れて止まった。


「皆さん! モ、モンスターでごぜぇやす! 戦える方はどうか戦って下せぇ! おねげぇしやす!」


 御者さんがそう叫んだのが聞こえた瞬間、俺らとミラギさんは既に馬車の外に出ていた。


『ルヴァルチャァァァァァァァァァ!』


 眼の前にいるモンスターは、黄緑色のサソリがコウモリのような翼で飛んでいるような見た目をしている。


「ひぃぃ! サ、サソリが飛んでますぅ!」

「だねぇー……」


 こういう飛んでる敵には俺弱いんだよなぁ……ダンジョンではキーちゃんにやって貰ってたし。


「ふむ、お前の横にいる美女達は何だ?」

「……俺の仲間です」

「ふっ、とても良い仲間だな」

『ルンヴェルヴィィィィィィィィィィィィィィ!』


 無視するなと言わんばかりの鳴き声を上げるサソリコウモリ。

 俺はすぐに短剣を構え、サソリコウモリを睨み付ける。


「ほお、お前は短剣使いなのか」

「そうです。ミラギさんは?」

「普通の片手剣だ」


 そう言うと、ミラギさんは腰に差していた剣を抜いた。

 剣身が銀色に輝いており、太陽の光を反射している綺麗でシンプルな剣だった。

 いい剣だな……ちゃんと重量もありそうで振りやすそうだ。

 ミラギさんは、その片手剣をクイッと外側に向けた。


『ルヴェァァァァアアアアアア!』


 反射している太陽光を、サソリコウモリの目に直撃させたのだ。


「行くぞ!」


 怯んだ隙に、俺らはすぐにサソリコウモリに向かって突っこむ。


「うおお!」


 ミラギさんが素早い剣技でサソリコウモリを斬ろうとしたが、サソリコウモリは危機を感知して上へと逃げた為、当たらなかった。


「私から逃げようとは……傲慢ごうまんだな」


 するとミラギさんは剣先をサソリコウモリに向け、ふんっと力を込めた。


「「「えっ!?」」」


 その瞬間、剣先から金色のビームの様なものが飛び出し、サソリコウモリを捕まえた。


『ルヴァィェェェェェェェェェェェェェ!』

「私が捕まえといてやる! お前らはとどめを刺せ!」

「わ、分かりました!」


 ミラギさんによって地面に引き寄せられたサソリコウモリの喉を短剣で斬る。 


『ルヴァルカリギャァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!』


 サソリコウモリはそう叫び、動かなくなった。


「よし、討伐完了だな」

「あっ、ありがとうございました!」

「「ありがとうございました!」」

「礼は要らん。聖騎士として当然の事をしただけだからな」


 そう言ってミラギさんは馬車の中に戻って行ってしまった。


「聖騎士って……凄い力をお持ちなんですね……」


 馬車に戻って行くミラギさんの背中を見ながらエリシアが感心したようにそう言う。


「ははは、そうじゃないと聖騎士にはなれないでしょ」

「それもそうですね」

「まあでも本当に今回はあの人の力に助けられたなぁ……」

「ルイド様はあの方に頼らなくても良い程にお強いですよ!」

「ははは、そう言って貰えると嬉しいよ」


 そう言って俺らも馬車の中へと戻るのであった。

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