第17話 私、結構強い

 結局、あのある意味モンスターな騎士さんは隊長さんに、股のところが若干濡れるほど、とても怒られたようで、土下座する勢いで腰をおり、謝ってくれた。


 その後は特に問題となるようなことは起こらず、平和、ではないけど、派遣された騎士と上手く連携をとって過ごせているように思う。特にヘルガとはそこそこ話をするようになり、ヘルガがこのような非常時以外で、主に働いている場所、レントの話を聞いたりしていた。


 (まぁ、ほとんど人為的であることに間違いはないけど、それと思われる人は村の方からは見つからなかったし、しばらく終わらないだろうなぁ。最近思ってるのは、なんでこんなちまちまモンスターを放出してるのか、なんだけど)


 「はぁ、いったいいつ終わるのやら」


 「えぇ、でも俺はリンカの話が面白いしもう少しぐらい続いてくれてもなぁ」


 「あんたは面白いかもだけど、こっちは毎日手強い相手と戦わなきゃなんないのよ?それに、いつもっと強い化け物が分からないんだし、そんなこと言うもんじゃないわよ」


 「そうそう。まったく、ゲウラスは子供だなぁ、ププ」


 「はぁ?昨日、俺とおんなじこと言ってたくせに何言ってんだよ。じゃあお前も子供だな」


 「いや、ゲウラスよりは大人だから」


この2人のやりとりははやがて煽り合いになった。私とシェリとリウスで、その様子を見て呆れながらも、少しばかりの安心を感じていた。


 (やっぱり変に気を張らない時が一番いい)








「で、用とはいったい?」


ゆっくりしているところに、ヘルガに声をかけられて、村にある使われなくなった家(周りにもいくつかあり、今は派遣された騎士達の滞在場所である)に来ている。


 「少しばかり聞きたいというか、試したいことがあってな」


 「試したいこと?なんかの実験台代わりにでもするつもり?」


 「もちろんそんなことはしない。そんなこと、するように見えるか?」


 「まぁ、そうね。どちらかといえば頭じゃなくて、力でって感じだしね。率直に言うなら、脳筋?」


 「おい。俺はガイエルじゃないんだぞ。やめてくれ」


あ、ヘルガにもそのこと伝わってるんだ。そういえば昨日、何かで使うらしい木を割ってくれって頼まれて、手刀で割ってたな。ただ、そのあとの物がボロボロすぎて使い物にならないって言われてたけど。って、そうじゃない。


 「とりあえず、冗談はこのぐらいにしといて、本題、お願い」


 「あぁ、実はな、こっちの方である提案があるんだ。いつB級以上のモンスターが出てきてもおかしくない。今はモンスターを倒すにしても単騎で倒したり、多くても3人ぐらいのチームに分かれて、戦っているだろう。だから、5,6人ほどでチームを組んで演習を行わないか、と言う提案だ」


 ほぅ、なるほどね。確かにそっちの方が安全なのは確かね。でも、


 「私、誰とも組んで戦ったことがないのだけど。逆に危なくない?連携の取り方とか知らないし」


 「あぁ、そう言うと思った。確かにチームで何かをするにはそれぞれが何が出来るかを把握して、タイミングを合わせる練習をして上手くいくものだしな」


 「そうそう。もし5,6人のチームを組むなら、前衛、剣とかを使って戦う人が2人、魔法の援護射撃が2人で、回復役が1人?」


 「いや、神聖魔法が使える者は今回連れてきた20人弱には2人しかいないから、攻撃担当が2人、防御担当が1人、魔法による援護担当が2人を目安にした編成だな」


 「まぁ、いずれにせよ前衛が2人いるんだったら尚更難しいわよ」


「もちろんそれは承知の上での提案だ。リンカ、お前の実力はまだしっかりと見ていない。だから、一度俺と模擬戦をして、その上でこちらから最も適任であろう前衛を選んで、今後に備えて練習してもらいたい」


 「あぁ、なるほど。そういうことなら全然大丈夫よ。いつやるの?」


 「予定がないのなら、今すぐにでもできるが?」


 「逆に聞くけど、予定なんかあると思う?強いていうなら、あの子達と話すぐらい?あぁ、あとは剣の素振りとか」


 「いや、わかっていたがな?一応だ。一応」


ということでこれからヘルガと模擬戦をすることになった。正直、楽しみ。だって、レク以外とやったことがないしね!











「それじゃあルールを確認しておこう。この模擬戦の決着の着け方は、審判を務めるレクが、それ以上の攻撃が致死的なものであるとみなした時、あるいはこちらが実力をしっかりと判断できる段階でまだ戦闘が続くようなら、俺が合図をして、強制的に終了とする。いいな?」


 「えぇ」


 「俺も大丈夫です」


そして、事前に決められた位置にお互い立つ。

双方、構えてください、そのレクの言葉に続いて、剣を構える。ヘルガの扱う武器も一般的な大きさの剣のようで、同じ形、同じ材料で作られた木剣をお互いに構える。


 そして、このことを聞きつけて集まった暇人達が野次を飛ばし始まる。てか、おいゲウラス。何が、リンカ、ま・け・ろ!だ。全然話したこともないようなおっさん、応援してんな。身近な人間の方を応援しろ。


(ふぅ、とりあえず集中しましょ。あれは後でどうにかすればいいし。今回は殺傷能力のない魔法の使用は許可されてる。正直、私の方が上かどうかとか分かんないし、初めから全力でいくか)


 「双方、準備はいいですか?」


 「いつでも」


 「俺も、同じくだ」


 「それでは、模擬試合、開始!」


 レクの挙げていた右手が振り下ろされると同時に、足に魔力を込めて地面を蹴り上げる。


 (まずは相手の力とか色々見ていきましょうか)


 軽めに、それでいて早くコンパクトに振るわれた剣が、ヘルガが後ろに一歩下がることで避けられる。


 「っ、思ったより剣が扱えてるな!」


 「そりゃどうも!」


 ヘルガが地面に足をつける直前に、踏み込んで間合いを詰めると同時に


 「魔衝波」


 ヘルガの着地点に魔力の波を起こす。


 「うお⁈」


 少しだけバランスを崩して、その状態で私の攻撃を受ける。一瞬だけ苦しそうな表情をしたが、結局それだけだった。鍛えられた体と体幹で、逆に私の体ごと後ろに飛ばす。


 (ぐっ、大体予想はついてたけどやっぱり力では押せないわね。上手くフェイントとか、魔法を使って、ちゃんと隙を作る!)


 そのままの勢いで迫ってきたヘルガの剣撃を、ギリギリのところで避けたり、受け流す。そして、左からの追撃がきたとき、瞬間的に腕に魔力を込めて、ヘルガの剣の下側に滑り込ませた私の剣を上に全力で振り上げることで、ヘルガの体が後ろに反れる。


 そして、左脚を軸にして、ヘルガの横腹に魔力を込めた蹴りを入れる、が、攻撃を受けた方向に、数歩よろめいただけだった。


 (蹴りを入れたところを魔力で強化してたか、、、、厄介ね)


 反撃を食らわないようにすぐにヘルガと距離をとった、ところで、ヘルガはこちらをじっと見た後、スッと剣を持たない左を挙げる。そして、


 「えぇと、ヘルガさんが十分リンカさんの実力が把握できたということで、ここでこの模擬戦は終了です」


 とレクが告げる。その直後、一瞬の間ののち、えぇ、とがっかりしたような声が上がり、たいちょー、まだまだいけますよ!とか決着つくまでやれー!とかの野次が飛んできたが


 「もともと、リンカの実力を測るためのものだ。これ以上はやらん。とりあえず、リンカはついてきてくれ」


 そう言って歩き始めた。


 (う〜ん、とてつもない不完全燃焼感!)


 そう思いながらも、どこか楽しそうな表情だったヘルガの後をついて行った。








 ヘルガと模擬戦をする前の場所に戻ってきて、


「で、どうだったの?」


 「あぁ、もちろん文句なしの実力だ。またいつか、しっかりとした練習用の武器で本気で打ち合ってみたいもんだ」


 「あら、いつでも受けて立つわよ。今回ので私も満足いってないし」


 「はは、それならレントの街に来てもらわないとな。その時が楽しみだ」


 とのことだった。


 ちなみに、チームの話はどうなったのか。これは、私の実力に合わせられる者はいなかったそうです。はい。なので、魔法による援護役と、もしかしたら盾役と組むかも、ということになりました。


 いや〜、成長チートも困ったもんね!


 


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