第31話 麗しの青年
さくらが去った後、白火は信也と話していた。椿とゆきのは、さくらを探しに行った。
「…妖狐、あんな言い方はないだろ」
「だってよお、さくらがさっさと、夜行の記憶を思い出してりゃ、こんな事しなくて済んだかもしれないぜ?」
「お前は少しは反省しろ」
「やなこった!オレは悪くねぇーし」
「そういうとこだぞ…」
信也は呆れながら、白火を一瞥する。
一方、さくらは迷いながらもちょうど見つけた小さな部屋に入って、隅っこで体育座りをしていた。
「…白火のバカ!私だって頑張ってるのに…!!」
溢れ出てくる涙を擦りながら、ピンク色のスカートに顔を埋める。
「君には涙は似合わないな」
ふと、誰かが入ってきた事に気づかずに、顔をあげる。
「あっ!ごめんなさい…!勝手に入っちゃって…」
慌てて目を擦り、声の主の方を見る。
「大丈夫?」
黄緑色の癖毛を後ろに高くまとめ、緑色の羽織、黄緑色の着物に茶色の袴を履いた、麗しい青年がいた。
「君、泣いていたけど大丈夫?僕でよければ話聞くよ?これ、使って」
青年は若葉色のハンカチを差し出し、受けとる。
「…ありがとうございます。あ、あの!あなたは誰ですか?ここの人ですか?」
(…そういえば、ここって妖怪の世界なんだよね?なんで、人がいるんだろう?)
「自己紹介が遅れてたね、僕は
「ええっ!?若葉さんって妖怪なんですか?」
「うん、僕は木霊っていう妖怪なんだ」
「…木霊?木霊ってなんですか?」
「樹木とかに宿る精霊みたいなものだよ」
「なるほど…」
ハンカチで涙を拭きながら、なんとか理解をして、若葉はさくらの隣に座り、笑顔で話しかける。
「それより、少しは落ち着いた?」
「そうだった!あの…白火…えっと…喧嘩しちゃって…」
「その子と仲良くしたいの?」
「…嫌です!いっつも私の悪口ばかり言うんだから!!」
「それは大変だね…」
若葉は呆れた顔で、さくらは悲しみから、だんだん怒りへと変わってくる。
「聞いてくださいよ、若葉さん!!白火ったら、私の事、まな板とかチビとか言うし、我が儘で生意気だし!」
「君みたいな可愛い子に対して随分失礼な事言うね」
「可愛いなんて…!そんな!」
(えへへっ可愛いなんて言われた!嬉しい!)
「少しはすっきりしたかな?」
「はい!可愛いなんてありがとうございます!」
「いいんだよ」
「…あれ?なんだか、眠くなってきちゃった…」
うとうとして、若葉の方に身体を傾ける。
「おやすみ、さくらちゃん」
さくらが寝た時に、扉が開いて、ゆきのと椿が入ってくる。
「若様、いらっしゃったんですね」
「さくら!こんなところで寝てたら、風邪ひくよ!!若様はなんで、ここにいるの?」
「こら、椿、敬語!」
「いいんだよ。ゆきの、椿」
若葉は口に人差し指をあて、「しー」と言う。さくらに、自分の羽織をそっとかけてあげた。
「たまたま、ここに用があって来たら、さくらちゃんがいたからね。そこで少し話しただけだよ」
「僕と椿で結構探したんですよ。見つかって良かった…」
「もう、大変だったんだからね!お兄ちゃんと白火お兄ちゃんも探してたんだから」
「そうだったんだね、お疲れ様。信也達には、さくらちゃんが見つかったって伝えてくるよ」
若葉は部屋の扉を閉めて、出ていく。
「僕達も行きます」
「二人はここにいて。今日は使用人達は少ないからいいけど、さくらちゃんの事をよく思わない妖怪もいるからね」
「承知しました」
「りょーかい!」
二人は若葉に返事をして、さくらが起きるまで待つことにした。
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