第四部2

「殺せ。お前にできるのはそれだけだ」


「ちっ、どいつもこいつも……」


 ジャンは右脚のホルスターからマテバ・オートリボルバーを抜いた。

 重厚な威圧感を前にしても、兵士は眉一つ動かさなかった。

 それがジャンの怒りに火をつけた。


「びびらなかったのは褒めてやる。だが、結果は変わらない。お前の言う通り、俺には殺すことしかできない。これまでもそうして生きてきた。信念もなく、ただ殺しながら生きてきた。これが俺の人生だ」


 マテバ・オートリボルバーの銃口を兵士の額にあてがう。


「撃てよ。お前にとって俺の命などごみ同然だろう? 俺はこれからお前が積み上げてきた死体の山の一部となる。だが、忘れるな。お前もいつかは死体の山の一部となる。遅かれ早かれな」


「そんなことは言われずともわかっている。アディオス、軍曹」


 銃声が轟き、ビリヤード台に鮮血の飛沫がかかった。


 ジャンは革靴に付着した血液に顔をしかめた。

 そんな彼を死んだ瞳は見つめ続けていた。


 死してなお見開かれた双眸――なんとも不気味だった。

 憎悪の視線は死によって具現化された。

 レーザーのようなそれを注がれていると気分が悪くなった。


 手のひらで兵士の瞼を下ろし、ジャンは階段を下りた。

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